再試

クリスマス、大晦日、お正月、バレンタインという大事な行事をすっぽかしたケイさんのメッセージは私にとって教室の端に落ちてる画鋲みたいなもの。


私は掲示板が剥がれかけているのを見つけて落ちていた画鋲を手に取り、グッと親指で押し込む。


けれど向こう側がすごく硬くて体重をかけてもなかなか入ってくれなかったので、もう使わない教科書の角でトンカチがわりに叩いて入れていたら担任に軽くキレられた。


…はぁ。


厄年ってやつ?


年末から散々な私はイライラしながらあと少しで辞めるバイト先に出勤すると、元常連さんと2回目来店のお客様が見えた。


「らみゅちゃんおひさーっ。」


少し悲しげにルルちゃん推しだった常連さんはルルちゃんがいなくなったこの店にはあまり来なくなって久しぶりの感覚に少しぎこちなく手を振る。


私はいつも通りお客さんと接するように挨拶をすると、隣にいたケイさんはメニューを閉じて私をじっと見つめてきた。


優愛「…お兄さんもお久しぶりですねっ。待ってましたよー。」


私はわざとらしく声を棒にしてケイさんを挑発するとケイさんはじっと見ていた目線を逸らし、またメニューとにらめっこし始めた。


「…ったく。こいつがらみゅちゃんに会いたいって言ったから来たのに。なんか無愛想でごめんね。」


ペコペコと謝るケイさんの友達はケイさんの気まぐれにいつも付き合ってるみたいでいつものことのように呆れていた。


けど、その関係性が羨ましくてその友達がいる椅子に私は座りたくなった。


「俺ちょっと用事あってもういられないからさ、らみゅちゃん好きなドリンク頼んで飲んじゃって。」


そう言ってケイさんのお友達は2000円を置き、申し訳なさそうにしてお店を出て行ってしまった。


友達がいなくなってしまい、一気に静まり返ってしまったテーブルでケイさんはまだメニューとにらめっこして指を指した。


優愛「…あ、はーい。清茶ですね。」


と、注文を早々と終わらせようとするとまた指を滑らしたケイさんはいくつも注文するけど、一定のリズムでまた同じメニューを頼み始める。


…なにしてるんだろう。


私はじっとケイさんの指先を見てなにを伝えたいのか考えていると、メニューを指しているというよりメニュー上にあるふりがなに指先を置いている事に気付く。


すると、一周回ってきた指先がまたスタートする。


き、よ、う、お、わ、り、い、つ。


なに?


こっくりさん??


声に出したら一発アウトなのを知ってか知らずか、携帯のメッセージで打ってこなかったケイさんはまた指先を滑らし始めたので私は答えを教える。


優愛「ラストオーダーはこの時間なのでご飯ものは早めに頼んだ方がいいかもです。」


今日の私は早上がりな事を伝えるとケイさんはふーんと鼻を鳴らし、1つを指差した。


ケイ「これ。」


優愛「はーい。草苺牛乳いちごミルクですね。」


私はドリンクひとつだけを頼んだケイさんの元から離れて久しぶりにドリンクを作り、2つ同じドリンクを持ってテーブルに戻った。


すると、前と同じように指先を太ももに滑らしてきたケイさんはガーターベルトの用意のない私に不服そうに眉を寄せ、その手に持っていた小さな包み紙をグラスを持っていた私の手に強引にねじ込んできた。


私もその行動に眉を寄せると、何か硬いものが入ってるのに気付く。


ケイ「合鍵。あとで返してね。」


目の前の私にしか聞こえない小さくて低い声。


それが今までの気持ち全部をなかった事にしちゃうくらいかっこいいのがずるい。


優愛「…まじないかけちゃいまーす。」


まじないなんかクソ食らえと何度も思ってきたけど、今日だけはしっかり気合い入れちゃいます。


私は最後の仕上げだった練乳を惚れ薬になれと念じながらしっかりまじないをかけ、最後の最後と決めてケイさんの家に行くことにした。



環流 虹向/愛、焦がれ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る