流行
みんなが器用にナイフとフォークでご馳走を食べる中、私はフォークのみでお肉を突っついていると人気者の白波さんがまた女の人に声を掛けられた。
結婚式ってもしかして合コンなの?
そう思ってしまうほど、みんな話すことに積極的で私は1人肩身が狭くなっていると目の前にワイン瓶の口を突き出された。
「このドレスには赤ワインが似合うね。」
そんな臭いことをお酒とタバコの匂いがきつい男の人がわざわざ私の隣に来て言うと、そばにいた友達と思われる人たちも気化したアルコールとニコチンを私にぶつけてくる。
その感じが自分の1番嫌いな人に似ていて口をへの字に曲げかけていると、空になったジュースグラスにワインの口を置かれた。
「ブーケちゃんも呑もうよ。」
と、瓶の底が上がった瞬間、私の前に腕が伸びてきてその瓶が臭い男の人から奪われた。
白波「この子、未成年。」
「は?マジ?」
「妹ちゃんごめんね。」
めんどくさい男の人たちを一言で突き返した白波さんは自分のワイングラスにそのワインを注ぎ、一息つく。
その様子を見て白波さんと話していた女の人たちは妹さん可愛いねと私をおだてるけど、無駄。
私たち2人の周りだけ一気に凍りつき、もう少しでデザートがやってくるというのにこのテーブルには私と白波さんしかいなくなった。
白波「二次会は行きたい?」
優愛「行きたいけどめんどくさいかも。」
白波「俺はどっちでもいいよ。優愛ちゃんの気分で動いてあげる。」
いっつもそうだけど、白波さんはそれで楽しいのかな?
ふと、自分の予定に巻き込んでしまった白波さんのことを考えてしまった私はあと一口だったポテトを口に運べないでいると白波さんが横取りしてしまった。
白波「お腹いっぱいなら二次会は楽しめないかもね。」
二次会はきっとお酒を呑むための場所。
シラフだったら冷め切っているつまらないゲームをする所。
そんなことをケイさんは言ってたけど、どうなんだろう。
私はちょっと大人になるために意を決して二次会も参加すると、未成年とバレるオレンジの紙バンドをされせっかくの気持ちをへし折られる。
白波「飲み物何にする?」
優愛「これ。」
私は久しぶりに飲みたくなったファジーネーブルを指すと、白波さんは呆れた顔をした。
白波「ここじゃ無理。」
優愛「美味しいのそれしか知らない。」
白波「じゃあちょっと待ってて。」
そう言って白波さんはメニューと引き換えにドリンク2つを持って戻ってくると、綺麗なオレンジ色のジュースを私にくれた。
白波「シンデレラ、どーぞ。」
優愛「私はジャスミンが好き。」
白波「違うよ、それの名前。」
と、白波さんは私のジュースを指してくすりと笑う。
白波「ちゃんと門限までに帰ろうね。」
優愛「…えー?」
携帯に目を落とすと門限まであと2時間。
二次会は始まったばかりでミサさんたちがこっちにくるまであと30分くらいはあるらしい。
会いたいと強く思ってるわけじゃないけど、この場にいたい私は白波さんへの返事をうやむやにして過ごしているとあっという間にその時間が来てしまう。
白波「帰るよー。補導されるよー。」
優愛「お兄さんがいるから大丈夫。」
白波「お兄さんは家で酒飲みたいんだけど。」
と、私のせいで飲み足りなさそうな白波さんはほろ酔いの中で初めて私に文句を言う。
しかも私がダメって言ったお酒を理由にして。
優愛「今日はまだ帰りたくない。」
白波「そういうのは…」
優愛「今日イチ可愛い子を持ち帰らないの?」
私は半歩だけ後ずさりした白波さんの腕に抱きついて大人なクリスマスを過ごそうとしていると、周りの目がこちらをチラチラと見て小さく口を動かしているのが見えた。
そんなに私って子どもっぽい?
おろし立てのワインレッドのレースワンピース。
初めてサロンに行ってやってもらった桃色ネイル。
今も履きなれない10㎝ヒール。
私の大人っぽいを詰め込んだはずなのに大人がたくさんいるこの場所にはなぜだか馴染めない私は色々経験してきたはずなのにまだ子ども。
そう言われてる気がして少し浮かれていた気分が落ちると、それをすくい上げるように私の頬に温かい手が置かれた。
白波「彼氏は?」
優愛「いないよ。」
白波「好きな人は?」
優愛「いるよ。」
白波「今日は会わないの?」
会えないの。
そう言いたいけど、そんな寂しい人扱うなんてだるいよね。
優愛「予定あるって。」
知らないけど。
まあ、今日誘われなかったってことはそういうこと。
だから何でもない私は久しぶりに白波さんの家に泊まっていっぱいの可愛いと好きの補充をしてもらい、こぼれないように胸の上で寝かせてもらった。
環流 虹向/愛、焦がれ
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