第21話

家が決まり、和家さんは一旦、アメリカへ帰ることになった。


「できればあの家に移ってからアメリカに戻りたいんだが、ちょっと用ができてね。

すまない」


出発する日の朝、申し訳なさそうに和家さんが詫びてくる。


「別にそれはかまいませんが」


だいたい、今回の帰国に私との結婚なんて予定はなかったはずだ。

急に私の妊娠がわかって彼の予定は狂いまくりだろう。


「それよりも、早く帰ろうって無理はしないでくださいね?」


「わかった。

李依とお腹の子のためにも無理はしない」


約束だと言わんばかりに、和家さんの唇が重なる。


「なにかあったら連絡してくれ。

すぐに帰ってくる」


「だから、そんな無理はしないでくれと言っているんです」


和家さんのことだから、本当にしそうで怖い。

しかも、彼はプライベートジェットを持っているのだ。

ちょっとしたことで今からすぐ帰るって、帰ってきかねない。


「わかってるって」


和家さんは笑っているが、ちゃんとわかってくれているのか疑わしい。


今日も会社まで和家さんが送ってくれる。

私を会社に送り届け、そのまま空港へ向かうらしい。


「あ、そうだ。

李依の車と運転手兼ボディーガード兼世話係、決めてきた。

今日の帰りから彼女が迎えに来るはずだ」


「ええっと……」


情報が多すぎて理解が追いつかない。

車……まではわかる。

運転手はかろうじて。

でもその先がわからない。


「あの、ボディーガードとか世話係とか……?」


「李依になにかあったら困るからボディーガードは必要だろ?

身の回りの世話をしてくれる人間も必要だ」


「はぁ」


そう……なのか?

今はホテル住まいだからホテルのスタッフがしてくれているが、和家さんにもそんな人がいるのかな……?


「しかし可愛い李依によろめかない男なんていないからな。

女性でも安心はできないが、男よりはマシだ」


これは本気で言っているのかな……?

私なんて過去に付き合った男はあの別れた彼しかいない。

よろめかない男はいないなんて大袈裟すぎるが、和家さんは真剣に心配している。

でも、そうやっていない相手にヤキモチを妬いているのは、可愛い。


「でも安心しろ。

彼女は元自衛官でそこらの男には負けないし、家事も育児もできるからな」


和家さんは酷く得意げで……もういいや、それで。

私にとっては普通じゃないが、和家さんにとって普通ならこれは慣れるしかないのだ。

諦めよう。

それに。


「私のためにありがとうございます」


こうやって私を思っていろいろしてくれるのが、嬉しくないわけがない。


「李依のためにいろいろするのは当たり前だろ」


照れくさそうにぽりぽりと人差し指で彼が頬を掻く。

なんだかそれに私も恥ずかしくなってきた。


「いってらっしゃい。

なるべく早く帰ってくるな」


今日も車から降りた私に、人目も気にせずに彼がキスしてくれる。


「悠将さんもいってらっしゃい、気をつけて」


そのまま素早くキスし返して、離れた。


「えっ、あっ、李依!?」


なにが起こったのかわかっていない和家さん――悠将さんに背を向ける。

顔が熱い。

でも、これくらいたまにはいいと思う。


「速攻で仕事終わらせて帰ってくるなー!」


会社に入る私の後ろから、上機嫌な悠将さんの声が追ってきた。

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