第四章 あなたを幸せにするのは……

第19話

その後。

職場での私の噂はとりあえず沈静化した。


……表向きは、だけれど。


私になにかしたら和家CEOが……和家CEOから契約がもらえなくて会社に大損害を与えるかもしれない。

というわけで腫れ物扱いされているのには、苦笑いしかできない。


書類も揃い、すぐに婚姻届を提出した。


「ちゃんと受理されたよ」


帰ってきた和家さんが枕元に座り、寝ていた私の髪を撫でてくれる。


「ううっ。

一緒に提出したかったです……」


今日は朝から吐いて具合が悪く、仕事も休んで寝ていた。


「そうだな。

次は一緒に行こう」


ちゅっと、あやすように口付けが額に落とされる。


「次ってなんですか?

二度も結婚しませんよ」


変なことを言う和家さんがおかしくて、ついくすくすと笑いが漏れた。


「それもそうか。

でも、李依とだったら生まれ変わっても、何度だって結婚したい」


ふっと薄く、和家さんが笑う。

それが妙に色っぽくて、目を逸らしていた。


「……じゃあ、そのときは」


どきどきと速い心臓の鼓動が落ち着かない。

和家さんって凄く綺麗。

こんな人が本当に私の旦那様でいいのかな。

私なんてただの平凡な一般人なのに。


「そうだ、これ」


さりげなく和家さんが取り出したのは、指環のケースだった。


「僕の印を李依に着けてもいいか」


レンズの向こうから彼が真っ直ぐに私を見ている。

とても甘く蕩ける瞳に、私も自然と笑顔になった。


「……はい」


「ありがとう」


もそもそと起き上がったら、手を貸してくれた。

ケースから指環を出し、左手薬指を取ってそれを嵌めてくれる。


「僕にも李依の印をつけくれるか」


「……はい」


私も同じように彼の左手薬指に指環を嵌めた。


「僕たちはこれで夫婦だな」


和家さんがそっと私を抱き締める。

私も手を伸ばして抱き締め返した。


「そうですね」


和家さんの腕の中、安心する。

彼に抱かれたあの夜もそうだった。

熱いのにとても優しくて。

だからすべてを、彼に預けられた。

これが私のものだなんて、まだ信じられない。


「李依を愛している」


「私も和家さんを愛しています」


ちゅっと唇を軽く重ねるだけして、和家さんが離れる。

それがちょっと、淋しい。


「そんな顔をしない。

また吐いたら嫌だろ」


「うっ。

……そうでした」


今は胃のムカムカは止まっているとはいえ、平気だとは限らない。

自分の身体なのに思うようにいかなくて、もどかしいな。


「本当はハワイで、あの指環を外させて僕の贈った指環を着けさせたかったんだ」


並んで座り、和家さんが私の腰を抱き寄せた。


「やっと僕の夢が叶った」


うっとりと和家さんの指が、左手薬指に嵌まる私の指環を撫でる。


……そんなに、前から?


ハワイにいるときから私を落としたいだのなんだの言っていたが、あれは冗談か、女性になら挨拶的にそういうことを言う人なんだろうと思っていた。

まさか、本気だとは思わない。

愛してくれているのは体感でわかるが、だいたい、彼は私のどこがいいのだろう?

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