冬【と息みたいに】

 この哀しみは誰にも分からない。深い雪の冷たさのように。


 闇夜に吐息の白さにつられて空を見たら、雲をまとう満月と目があった。思わず顔を逸らして、雪で白く染まった田舎町に瞬きを繰り返す。


 もう閉まっている教会の扉に縋るように手を伸ばし、階段に腰掛ける。


「雪だ……」


 ──ポツンと一つだけの街灯が私を照らす。大きく柔らかな雪は静かに舞い落ちている。


 息の白さが次第に溶けて……透明になっていく。視界から横向きに降る雪が消え、遠くにある町の明かりに意識を奪われる。


 と、同時に半身が冷たくなっていくのを感じる。


 眩い光から逃げるように瞼を閉じると、温かな確かなモノが鮮明に浮かび上がってきた。


 想い出と感情……そして熾烈に燃える力に圧倒される。──自分の中に、まだマグマがあったのだと。


 唇に雪が泣いた。その雫は渇きを潤し一気に吸い込む息。と息を吐き出し目を覚ます。


 ハッキリとした白い息が、私の存在をつきつける。


「そうだ……私」


 シンプルなことに気づいて起き上がると、積もりかけた雪がバサリと落ちた。悴んだ手をポケットに入れて足早に町へ向かって歩き出す。


 こんな時もある。


 ゆず味のホットティーが飲みたい、それだけ。今はそれだけで良い……。


 まだ来ぬ春へ想い馳せた夜。



End.





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