第一章 『魔王学者が魔王になる』
依頼内容と観測先の世界について
作品名:『魔王研究者が魔王になる』
【依頼】
魔王を倒した勇者が、魔王にさせてくる瘴気に打ち勝ち、平和になった世界で暮らしたい
【物語のあらすじ・背景】
この世界には「魔王を倒した者が魔王になる」という自然の摂理が存在する。ただ、これに気づいたのはただ一人、魔王研究者であるルイスだけであった。親友であるジムが勇者となり魔王を倒した数週間後に失踪し、魔王になっていたことから判明した。魔王討伐後の勇者が全員行方不明になる謎もこの事実が正解を示していた。
ルイスは思い切って魔王になったジムへ会いに行った。ジムはほんの少し残っていた理性を使って、ルイスに自分を殺させ、魔王の座を譲った。
何故魔王を倒した者が魔王になってしまうのか。それは、魔王を倒した瞬間に、魔王から発せられる瘴気が主な原因だ。吸った瘴気は徐々に体を蝕み、勇者歓迎モードが終わるころに、ちょうど症状が出始める。歓迎されなり、お払い箱になってしまったことで持った若干の不満に付け込む形で、瘴気が負の感情を増大させ、最終的に「人間を滅ぼしたい」という感情にまでもっていってしまう。
生憎ルイスは不満を特に持たないまま瘴気に侵されたため、完全に魔王になったわけではないが、魔王の座自体は受け継いでいるので、魔王の権能等は自由に使えている。なんというご都合設定。作者もこのあたりの設定はゆるーく考えて欲しいとのことだ。
こんな展開で始まるし、若干重めの設定であるが、この漫画はギャグマンガだ。
老衰で死ぬために、勇者に殺されない様に努力する魔王ルイスと、魔王は絶対的な悪であり、倒すべきだと盲目的に信じている勇者チャーリー。そんな二人の攻防戦である。
魔王研究に勤しんでいた故に世間知らずなルイスが苦しんだり、純粋故にすぐに罠にはまるチャーリーが悔しがったりする様子がデフォルメ調に描かれている。月間漫画雑誌に掲載され、アニメ化も決定していた作品だった。
しかしながら、この作品はほぼ打ち切りのような形で完結してしまった。
この作品の作者を含めた多くの小説家・漫画家が表現の自由を求めて戦った、「表現闘争」によるものだ。「表現闘争」とは、表現の自由に関して国民投票を行うまで、編集社などに彼らが立てこもった一連の事件のことを指す。編集社が誹謗中傷を受けないような、万人受けする作品を作者に強制したことが発端となっている。
この作品の結末は、「魔王は勇者に殺された。そして、再び勇者が魔王になるループがこれからも繰り返されるだろう」というもの。あえて万人受けしないような完結を迎えさせたのだ。
これに対して、「表現闘争に参加するのは自由だけど、もう少し自分のキャラを大切にしろよ」や「この作品を無理やり完結したのが表現闘争の全てだよね」などという批判的な声が集まった一方、「これまでは何とも思っていなかったけど、自分も表現戦争に参加しようと思います!」や「人気作に限った話だけど、この方法はいい作戦」などという賛否両論の声が集まった。
また、「表現闘争」の結末もあっけないものだった。国民投票の結果、9割以上の人々が作者らの味方をしたのだった。残りの1割も棄権がほとんど。誹謗中傷をしていたのはほんの一握りの人間だけであったし、複数の端末・アカウント・住所・偽名を使い分けたり、組織的に誹謗中傷を行っていたりという事態が起こっていたことが判明した。中には、依頼を受けて誹謗中傷を行い、それを生業としている人物をいたほどだった。
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