第2話


「誰か姫の病を治せる医師は居ぬのか!」


ありとあらゆる最高の医療技術が試され、高価な薬湯が浴びるように用意されましたが一向に効きません


努力を余所に

病はアレヨアレヨと美しい姫君から生来の星の輝きを奪い去っていきました



そんな病床のなかでした


姫は目を潤ませしっかり手を握る片時も側を離れないファハドに向かい〜


細く切れ切れの小さな声で「ばあやのカレーが食べたいの」


か細く、ささやかなお願い事をなされました



しかし聞いた皆はビックリ仰天、もれなく顔を引き攣らせました




姫のいう「ばあや」というのはお母上様が、お輿入れの時も生国から付き添ったという腹心の侍女です


とても料理上手

調合した特製スパイスカレーを一口、口に入れれば誰しもニッコリ♡


ふわーんと気持ちがトロットロ、幸せの特別の極上カレーでした


彼女でしか作れません


皆が挙って、手取り足取り秘伝通りに〜

大理石の乳鉢でセッセと、幾ら堅いスパイスを突いて砕いて料理しても全然駄目




しかし皆が驚いたのはそこではなく

実に真っ当な、悩ましい大きな理由がありました



「ばあやはもう引退して、確か〜

故郷の高山にある小屋に隠遁しているはずよ?


詳しくは実家の兄にアレコレ聞かなくちゃ解らないけれど……


彼女は姫がまだお小さい時にお別れしたのだけれど……

既に90を楽々越えていた筈よ?

果たしていまだ存命でおられるかどうか……」



だから行っても無駄だと大いに引き留められましたが


彼は一縷の望みに人生を賭けてみようと決心しました



「では私が姫のお願いを絶対に叶えて貰えるようにお願いしに参ります」


キリリと強い意思の瞳

王宮の皆は涙が隠せませんでした


一番姫を愛しているのに

愛する人の最後のいまわの際のお別れに立ち会うことが出来ないに決まってます



しかし勇敢なファハドは怯みません


「旅の経過は、誉れ高き宝石の名前をつけられた優秀な伝令の六羽の鳩達に。


ダイヤモンド号、エメラルド号、パール号、ルビー号、サファイア号、クリスタル号に我が私信を預けます。


ですから決してご心配なきよう!


姫様は私が帰ってくるまで待っていて下さいますか?」


「勿論ですわ」

「おやくそくですよ!」


二人は目と目を見合わせて、ニコッと微笑みます。


こうして恋する若者は心配する大勢の見送りの人を背に、忠実な侍従一人を従え六羽の鳩と共に国を旅立ちました。

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