第55話

車の中、1人になった蘭勝。



そして空気も読まず、入ってきた男は車の中で1人黄昏ている男を見て声をかけた。



「……やらなかったんっすか?」



「あん?」



「てっきり、俺はやるのかと思ってましたよ。無理矢理でも。」



「―――…俺もそのつもりだった。途中まで。」



「?」



「………アイツ、砦の名前しか呼びやしねえ。」



―――…そんな女を、無理矢理抱けるほど、俺も非道じゃねえ。



蘭勝は車の中から紗綾を見つめて、そう思う。






「何っすか?嫉妬っすか?」



面白いと顔を緩ませる逸樹にちらりとも視線を移さない蘭勝は、1人呟く。






「……そうだな。『アイツ』が俺だけを想ってくれてりゃあ、よかったのにな。」

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