プロローグ

第1話

たくさんの人達に囲まれた赤子。


その赤子を大事そうに抱き上げる1人の女性。


その女性の横にはまだ幼い男の子が座っていた。


『おかあさん!ぼくにも!ぼくもだっこする!ぼくも!ぼくも!!』


『いいわよ。気をつけてね?首をちゃんと持って』


男の子は慎重に赤子を抱っこした。


『んふふ。かわいいね!ぼくのいもうとはかわいいね!』


男の子は興奮気味に言った。


その男の子の隣には男性がいた。


『妹のこと守るんだぞ』


『うん!ぼく、まもる!』


幸せなそうな家族。


『可愛い子に育つぞ』


『あなたったら。親バカね。でも、そうねぇ。きっと可愛い子に育つわね。私の可愛い子』


みんな、祝福してくれた。


なのに………


それは、長続きしない幻。


優しさだけではどうにもならなかった。


覚悟が足りないものは親にはなれない。


最初は愛情があったはず。


でも、その愛情はいつの日か消え去り邪な心が蝕む。


言う通りにしていればいつの日か見てもらえる。


失敗などしなければいつの日か見てもらえる。


期待しては落ち込み、また期待しては落ち込みを繰り返していると次第に心が感じられなくなった。


笑顔が消え去り怒りも分からない。


感情の欠落などどうでも良いと思った。


必要がないものを捨ててしまったものだ。


だけど、彼らは否定した。


そして、感情を教えてくれた。


私の一歩はとても重くて幼子のように不安定なものだった。


それでも、私を見てくれた。


私が自覚した時にはたくさんの人達に囲まれていた。


あの時、差し出された手を取らなかったから私は完全に染まっていただろう。


自由に考えることができる喜び。


自分がやりたいことができる喜び。


もう、離す事はできない。


私は知ってしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る