令嬢探偵、調査する(1)


 ルシウス・クレイトン

 最初に話を聞くことになったのはこの男だった。

 若くて有能な商会長。一対一で向き合うと、先ほど感じた畏怖や魅力が決して気のせいではなかったのだと思い知らされた。


「俺は元々孤児院の出身でして、幼い頃に先代に養子として引き取られました。先代はずっと独身だったので、初めから跡継ぎにすることを目的に引き取ったのだそうです」


 一年前に急死したという先代のことを尋ねると、ルシウスは丁寧に答えてくれる。

 シエラは圧倒されないようしっかりと気を持ち、睨みつけるぐらいの気持ちで彼の目を見た。


「こちらの商会の代表がルシウスさんに変わってから急成長したという話は、私も何度か耳にしました。先代の頃と経営方針を変えたんですか?」

「いえ、基本的には先代の方針を引き継いでいるつもりですよ。ただ、非合理的なところをいくつか削るうちに一気に軌道に乗ったのは確かです」

「なるほど。では、商会の経営について、先代と全く気が合わなかったということはない、と」

「ええ。俺は先代のことを尊敬していますし、拾ってもらえたことに感謝していますよ」


 相変わらず、嘘をついているのかどうかがわからない。

 シエラはメモをとりながら軽く息を吐いた。


「よくわかりました。……後で先代が亡くなっているのが発見されたという部屋を見せてもらうことはできますか?」

「もちろん。あの部屋は定期的に掃除をしていますが、遺品は先代が生きていた頃のまま残っています。何か彼の死に関する証拠が残っているかもしれませんね」


 依頼人であるから当然なのかもしれないが、調査にも非常に協力的だ。

 とりあえず今聞いておきたいことはこんなものか。そう思ってお礼を言ったシエラだが、ルシウスが部屋を出ようとする直前に一度だけ引き留めた。


「あの、……ルシウスさん、どこかで私と会ったことありませんか?」


 一瞬。ほんの一瞬だけ、これまで絶えることのなかった微笑が彼の顔から消えたような気がした。

 自信が持てないのは、次の瞬間にはもう元の笑みが戻っていたからだ。


「いえ。今日が初対面だと思いますよ」





「うんうん。ルシウスさんと先代はちゃんと仲良かったよ。本当の親子みたいだったもん」


 シエラが次に話を聞いたのはレオンだ。

 彼の生い立ちや商会での立場についてはこの前聞いていたので、今回は主にルシウスのことについて尋ねた。

 ルシウスの言葉を完全には信用できないと思い色々と聞いてみたのだが、レオンの口から語られたルシウスの評価は、本人が語っていたものと大差はない。


「とにかく、ルシウスさんが先代を殺したなんてこと、絶対に絶対にあり得ない。まったく、あんな手紙いったい誰が書いたんだろ。シエラお姉さんの推理だと、僕たちの身近な人かもしれないんでしょ?」

「うん。レオンくんはあの手紙を送ってきた人に心当たりはない?」


 レオンは静かに首を横に振った。


「わかんないけど、あんなめちゃくちゃな脅ししてくるんだから、きっと同じ業界のライバルの人とかだと思うな。どうにかしてクレイトン商会の悪い噂を広めようとしてるんだよ」

「なるほど。参考までに、そのライバルについても教えてくれる?」



 レオンは聞いたことのないライバルの名前をいくつか挙げた。

 一応全てメモを取ったが、あの手紙はそういった人たちによるものとは考えにくい気がした。





 シエラが最後に話を聞いたのは、先代が若い頃からずっと共に商会を支えて来たという老人、ジョシュアだった。


「ご令嬢は、薔薇の花はお好きですかな?」


 ジョシュアは部屋に入るとき、花瓶に生けた赤い薔薇を持ってきた。

 シエラは特別花が好きだというわけではないが、その薔薇の見事さには思わず手を叩いた。


「すごい!綺麗な薔薇ですね!」

「今朝、贔屓にしている花屋で売っているのを見つけましてな。見ての通り味気のない部屋ですが、花があるだけで一気に明るくなるでしょう」

「本当ですね。ジョシュアさん、花にはお詳しいのですか?」

「とんでもない。店で買った花をこうして生けて部屋に置く。先代が若い頃からずっとそれが習慣になっているというだけですよ」


 ジョシュアは照れ笑いを浮かべて頭を掻く。


「先代は花なんざこれっぽっちも興味を持ってなかったから、こちらもあまり準備のしがいがなかったものです。そのくせ飾るのを忘れたら部屋が地味だと文句を言うんですから……昔から面倒な奴でしたよ」




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