FXに夢と希望を託した男の話!

オーストリッチマン

第1話 初トレード

 これから話す内容は俺がFXと出会い、FXに魅了され……いや、引くに引けなくなっていった物語である。

 ほぼ実話だが、細かいトレード結果などはフィクションなので悪しからず。


 ここで、FXを知らない方のために簡単に仕組みを説明しておく。

 FXとは、日本円を米ドルに交換するときに発生する差額や、2国間の金利差によって利益を得ることができる金融商品のことだ。

 ちなみに、FXとは『ForeignExchange』の略称で、日本では『外国為替証拠金取引』と呼ばれている。



     ◇◇◇



 2009年のある日、ニュース番組で株トレーダーに密着取材した放送がお茶の間に流れた――。


 当時の俺は28歳。そして、密着取材されている株トレーダーも同い年くらい。

 トレーダーと俺が同年代だったこともあり、興味を引かれた俺は食い入るようにテレビを見る。


(ふ〜ん、200万弱で始めたのか――で、どれくらい稼いだんだ? ……ハァァァア、嘘だろ……?)


 なんとその方は200万足らずの資金から始め、100億以上の資産を築き上げていた!!!


「株って……こんなに稼げる……のか?」


 株には夢や希望が詰まっている。俺はそう思った。


(善は急げだ)


 俺はすぐさま証券会社に口座を開設した。


 当時のトレード環境は、ノートパソコン1台。

 しかも数十年前のノートパソコンだから、今の高性能なノートパソコンと比べたら超低スペック。なので、固まることがしばしば……。


 ――さらに、回線はADSL。


 ADSLを知らない人のために分かりやすく言うと、ウサギとカメだ。もちろん、光回線がウサギだ!


 株は銘柄やチャートなど見るところが多いので、俺のこの環境では無理だと判断。

 とは言ったものの、このような環境でも稼いでいる方がいたのは事実。


(まぁ体のいい言い訳だな……)


 株は俺に向いていない……そう思っていた――そんな時、ニュース番組でFXのことを取り上げていた。

 FXという名前は知っていたが内容はいまいち理解していなかった俺は、勉強するつもりでテレビを真面目に視聴する。


(レバレッジというのを使えば、小額から出来るのか! ということは……株みたいに資金力は要らないってことか!!!)


 株は最低購入枚数があり、まとまったお金が無いと買うことができない銘柄があるが、FXは資金力が少ない俺でも大勝ちを狙える。

 このことが分かり、すぐさまFX業者に口座を開設した。


 当時のレバレッジは200倍(現在は25倍)。なので、資金力が少なくても挑戦できるのがFXの魅力だ!


(まずは本を買って、勉強だなっ)


 俺はFXの本を購入し、本格的に勉強する。


(ヨシ! 必要最低限の知識は覚えた。さぁ、億万長者を目指しますかっ!)



     ◇◇◇



 初心者はデモトレからだろ? という意見もあるが、俺は実践しながら体で覚える派だ。

 悪い言い方をすると、めんどくさがり屋だな……。


 それにデモだと、いくら負けても全く痛くも痒くもない。だから、真剣味にかける。

 この様な理由で、俺は最初からリアルマネーでトレードすることに決めた!


 とは言え、いきなり全財産突っ込むのはバカのやることだ。なので様子見の意味合いを込めて、最初は無くなってもいい3万円を入金する。


(まずは、本に書いてあったことを実際の取引画面で確認するかっ)


 チャートを眺め、本に書いてあったことを確認する。


(この青い棒が陽線ってやつで、赤い方が陰線ってやつだな)


 ローソク足の確認が終わったので、次は注文の仕方を確認する。


(この買いってのが上がる方で、売りってのが下がる方ねっ。で、この決済ってのを押せば利確できるのか。ヨシ、理解した。さぁ、トレードするぜ!)


 チャートを眺めていると、上がりそうな気配を感じた。


(ここで買ってみるか)


 恐る恐る『買い』ボタンをクリックする。

 初めてのトレードなので、数量は1ロットだ!


 チャートを注視していると、俺の願いが届いたのか予想通りレートが上がる。


(1ロットのポジで1銭上がると、100円の利益。本に書いてあった通りで間違いないようだ。ということは、10銭で千円。1円動くと……1万円の利益ってことか! これが10ロットなら10倍。100ロットなら……1円動くだけで100万円の利益か! 夢があるぜ!)


 確認が終わったので、俺はロングポジションを利確!

 建値より3銭上がったところでの利確なので、儲けは300円。


「300円ゲット!」


 たったの300円ごときで喚くなと思うかもしれないが、初めてのトレードだったから300円の勝ちでも嬉しかった。


 ――ちなみに、この当時のスプレッド幅はドル円で1銭。ユーロ円は2銭。ポンド円は3銭だ。


 1ロットで回すとこんな感じなのかと理解したところで、次は5ロットで勝負する。ポジションはロング。

 1ロットとは違い、1銭動くだけで500円動く! だから、緊張感が半端ない。


「上がれぇ」


 1円上がれば5万円の利益。俺は必死に応援する。


 ――だが、無情にもレートは落ちて行く……。


「頼む。戻ってきてくれ」


 気づけば、5千円のマイナスになっていた……。


「もう無理……」


 これ以上のマイナスに耐えることが出来なくなり、損切りをする。


(まぁ、いきなり大勝ち出来るわけないか……)


 そう自分に言い聞かせ、再びトライ。

 その後は勝ち負けを繰り返し、最終的に元手の3万円を溶かした……。


(まぁ、これは勉強代。次からが本番だ!)


 というわけで、5万円を追加入金!


「さぁ、取り返すぜぇ!」


 下がりそうな気配を感じとった俺は、10ロットのショートでエントリー!


「さすがに10ロットだと、心臓がバクバクするな。下がってくれよぉ」


 俺の応援が届いたのか、レートがすんなり落ちる。


(10銭落ちたし、ここで利確だな)


 入金後の初トレードは、1万円の勝利!


(わかってたが……ヤッバッ。ほんの数分で1万ゲットか……。働くのがバカらしくなるな)


 さらに稼ぐためにチャートを見つめる。


 次に選んだポジションは、10ロットのロング。

 しかし、レートは思うように上がらず……落ちて行く――。


「クソッ、何で下げんだよッ」


 建値から10銭落ちたが、『まぁ、そのうち戻ってくるだろう』と俺は放置した。


 ――だが、無情にもレートは落ちて行く。どこまでも……。


 その結果、強制ロスカットを食らう。

 俺が投じた5万円の資金は無くなり、FXは甘くないと知る。

 簡単に稼げないことが分かったので、俺はFXとの距離を取ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る