序章

眠り

外は明るさを取り戻し、朝を知らせるかのように鳥達の穏やかな鳴き声が聞こえる…



夜更かしを続けた体はだるさを増し、眠っていない重い足取りは、思考を鈍らせる。



腫れた頬に苛立ちながら、踏み込む地面を蹴り続け、唯一の帰る手段に向かって足を動かした。



誰も遊ばなくなってしまった公園…



そこは、錆び付いた遊具達が泣いているようだった…


手入れされた形跡は無く、草木が自己主張をせんとばかりに生え茂っている。


その場に足を踏み入れ、使われる事のない薄気味悪い公衆トイレまで来ると、隠すように置いてある単車に手をかけた。



きっかけなんて、好奇心みたいなもので、いつの間にか覚えた乗り方は、誰に教わったかなんて忘れてしまった…



バイクに股がり、キーを挿し込む。



まだ人が眠っているだろう時間に、ふかし音がやけに響く…



住宅街を抜け、風を感じる。


クソ暑い季節なだけに、涼しさを求めて、走るスピードを速めた。



喧嘩した後は、決まって眠気に襲われる。体は怠くなり、虚しい感情が沸いて出る。



走り慣れた単車を転がす事すら、躊躇してしまいそうな程。



高校生にもなって、こんな生活を続けてて良いのか…


こんな風に朝帰りが出来るのも、夏休みとゆう学生の特権のお陰かもしれない。



中学の頃に比べれば、マシになった方だとつくづく思う…



悪さばかりを繰り返してみても、やってはいけない事の限度ぐらいはわかってきた。



それでも、親や大人達からすれば、結局の処…何も変わってないと思うのだろう。



強い風を見方につけ、今にも遠くなりそうな思考に終止符を打った。



アパートの前まで来ると、敷地内に単車を止め、エンジンを切る。



階段を登る度に奏でる音を嫌い、何も悪い事なんてしていないが、無意識の内に忍び足になる。


ポケットから鍵を取り出し、今から泥棒にでも入るかのように、息を潜めて扉を開けた。



外の明るさとは違い、静けさの漂う空間は薄暗く、誰も居ないとゆう錯覚に襲われる…



入ってすぐ広がる廊下を経て、自分の部屋の前まで行き、ドアノブに手をかけた。


一息吐いて…開けようとした手が止まる。



奥に視線を向け、居間の扉を見つめる…曇りガラスからは、明かりが点いていない事がわかる。



握り締めた手を動かし、ドアノブを押して自分の部屋へと足を踏み入れた。



音を立てないよう、扉を閉める。



倒れ込むようにベッドへ寝そべり、仰向けになって天井を見つめた…



疲れきっている所為で、何も考えたくないのに…



夏になると、暑さと共にあの季節を思い出す。



額に腕を乗せ、そのまま瞼を閉じた…



疲れた体から、ゆっくりと力が抜けていく――…

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