出発進行

第1話

──とても長い間、夢を見ていたような気がする。




私は湖の真ん中に立っていて、どこからか優しい声が聞こえて来る。


名前を呼ばれている気がした。


でも、それが誰の名前であるのか分からない。




とても暖かくて、


とても哀しくて、


泣いているような、


笑っているような、


優しい声だ。



返事をしないとと思った。


答えてあげないとと思った。





ゆっくり目を開けると、私はベッドの上にいた。


カーテンの隙間から差し込んでくる朝の日差し。





起き上がって、ぼんやりと外の景色を眺める。


なんのために生きているのか分からないまま、ただひたすらに時だけが過ぎていく感覚があった。


私を取り巻く世界にはいつも色がなく、モノクロだった。





鳥のさえずりが聞こえる窓の外。



カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。


キラキラしてる。


暖かい。


眩しい、太陽。──日光。





ぼんやりと外の景色をながめて、着想を得たのは多分なんとなくだ。


……なんとなく、のそりとベッドから足を降ろす。




スリッパをパタパタと鳴らし、お気に入りの白いワンピースを引っ張りだした。

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