第78話
その夜、エレノアはオズとともに王都を抜け出し、イェリの森を訪れていた。宝石のように光る花々とヒカゲ草が揺れる先王の眠る場所。
大きな翼に包まれるエレノアは、オズの月のような瞳を見つめた。
「ねえオズ」
呼べば、愛おしい気持ちが溢れる。少したりとも離れがたく、だが、凪のように穏やかな気持ちでもある。
「なんだ」
「オズはその…昼間の衣装、どう思った?」
エレノアはどぎまぎしつつ問いかけた。祝言ではオズはエレノアの花嫁姿に何も触れてはくれなかったからだ。
乙女心としては複雑なもの。姿を見られるのは恥ずかしいが、何も感想を伝えてくれないのは面白くない。
オズはしばしエレノアを見つめると、意図を理解したように口角を上げた。
「美しかった」
「…ほっ、本当?」
「ああ。見惚れていて、つい、伝えそびれた」
かああとエレノアの躰中が熱を持つ。
「う、嘘ではないのね? だって、オズはあまり感情を顔に出さないし、分かりにくいもの」
「なんだ、それは」
「だ、だって…」
「だが、エレノアよ。おまえはどのような時も、花のように美しい」
(オズったら、私を褒め殺そうとしていないかしら!)
まん丸と輝く月を見上げながら、オズはエレノアの肩を抱く。淡々と口にするその言葉には、エレノアを愛おしく思う気持ちが込められていた。
「オズも…その、とても素敵だったわ」
エレノアはオズの胸に寄り添う。魔族の王は黒き翼で包み込んだ。
「オズ、あのね……伴侶となっても、たまにはこうして、二人きりで森で過ごしたいわ」
「約束しよう」
「そうして、私たちの子には決して寂しい思いはさせないの。私たちは、子の成長をあたたかく見守ってあげるのよ」
「そうだな」
少し前まではオズと未来を語り合えるとは、つゆも思わなかった。
エレノアは幸せを噛み締め、ゆっくりと瞳を閉じる。
「もう……離れない。離さない」
「ああ」
「オズワーズ。私はこれからもあなたとともに、生きてゆく」
光り輝くヒカゲ草が揺れる。
『――ありがとう、我らの願いを宿す子らよ』
うねるように生えている木々が揺れると、あたたかく優しい声が聞こえてきたのだった。
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