第82話

「頼むよ....兄ちゃん....」



大きな舌打ちが耳に入った。


その舌打ちをした人が辰巳だと分かった直後、私を抑えていた辰巳の手が離れた。首筋から辰巳の顔が消えていく。



上体を起こした辰巳は、「どけ」と、奈央の向かって言い、ドスドスと階段を登って行った。



────バタンと、乱暴に閉められた扉が家の中で響く。




....助かった?


助かったの?





奈央は辰巳が部屋の中へ入ったのを確認すると、大きなため息をつきながら、私に視線を変えた。

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