第28話

私はずっと、乙和くんに触れたかった。



「…逃げてごめんなさいッ、………」



乙和くんが何かを言ってるけど、必死な私は乙和くんの言葉を遮り伝え続けた。



「1人にしてごめんなさい…」


「はる…」


「ずっとふれたかった…っ…」


「…はる…」


「だいすき、すき、だいすき、…」



乙和くんの服に、じわりと涙が滲んだのが分かった。私の方に少しだけ振り向き、「…はる、」と、私の名前を呼びながら「やめて…」と否定する…。



「すき、」


「やめてはる…」


「乙和くんが、すきだよ…」


「…聞いてたでしょ?俺、目が見えなくなるんだよ?」


「すき…」


「はる」


「すきだよ……」


「お願いだからやめて…」



乙和くんが苦しそうな声を出し。

ゆっくりと私の腕に触れた。

それでも強引に離そうとはしない彼は、もう1つの腕で自身の目元に手を置いた。





泣いている乙和くんは力が入らないみたいだった。次第に膝の力も抜けていき、公園の地面へと膝をつく。


それでも後ろから抱きしめるのをやめない私に、乙和くんはずっと泣いていた。



「最悪だよ……」と、呟きながら。



「だから、知られたくなかった…、こうなる事分かってたから……」


「乙和…」



狭川くんが、同じようにしゃがみこみ、「……ごめん」と、地面に手のひらをつき頭を下げた。



公園で、乙和くんに向かって土下座している男は、「……ずるい真似した、…ごめん…

、小町さんを使ってごめん…」と、額に砂が着くほど地面にふれていて。



「付き合ってない、付き合ってない……ごめん、乙和…ごめん……!!!」



公園内に響く狭川くんの声に、息が詰まりそうになる。


乙和くんは返事をしなかった。

喉の奥で、声を止めていた。

「あたま、あげろよ…」と、乙和くんが苦しそうに言ったのはいつか分からない。



頭を上げるように言われたのに、狭川くんは絶対に頭を上げようとはしなかった。




「……分かってたよ……、付き合ってないことぐらい……、分かってたに決まってるだろ……」



項垂れ、今にも消えそうな乙和くんを、私は抱きしめることしか出来なかった。



「お前も、勇心と同じで嘘ヘタなんだよ…」

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