第7話

もちろん、ノートを貸す関係は変わらなかった。放課後は一緒にテスト勉強をしたりする。


乙和くんは「ほんと、はるの字好き」と褒めながらシャーペンをカチカチと鳴らした。

放課後使える学校の図書室で、私の横に座る乙和くんは私が今勉強しているノートを覗き込む。



「それ何回目?」


私の字を何度も褒める彼。

図書室だから、静かにくすくすと笑った私は乙和くんを見る。乙和くんは柔らかく笑って「はる大好き」と今度は私の頬を赤くする事を言う。


照れくさくて顔を下に向ければ、乙和くんの私よりも大きな字が書かれているノートが見えた。



「乙和くんの字は大きいね」


「あーうん、きたないだろ?」


「そんな事ないよ、読みやすい方だと思うよ?」


「ほんと?それはめちゃくちゃ嬉しい。字書くの、あんまり得意じゃないから」



確かに字を書く事が得意じゃないと言った乙和くんは、書くスピードがゆっくりだった。

スラスラというよりも、一字一字、まるで書道のように間違えないように確かめて書いているようで。


そういえば前に、近い距離も遠い距離も見えにくく、眼鏡をかければ疲れる…と言っていた事をうっすらと思い出した。



近い距離が見えにくい…。

もしかして老眼?と思ったけど。

それは歳をとった人がなるものだから。

それは違うと判断し。



「あー、前髪じゃま」



ぽつりと言った乙和くんの言葉に、ああ、前髪のせいで見えにくいのか…と思った私は、邪魔そうに落ちてくるミルクティー色の前髪をさわっている乙和くんに、「髪どめいる?」って聞いてみた。



「髪どめ?」


「うん、待ってね」



鞄からヘアゴムなどが入っているポーチを取り出し、黒くて細長い髪どめを乙和くんに差し出した。


男性で、こういうものを使うのはあまりないかもしれないけど。それを躊躇いもなく受け取った乙和くんは、自身の前髪をとめた。



「どう?変じゃない?」



少しおでこが出た乙和くんは、やっぱりかっこよく。かっこいい乙和くんは、何でも似合ってしまう。

きっと私は何度でも惚れ直すだろう…。



「うん、かっこいい…」



だから本音を言えば、照れたような顔をした彼は「はるはいつもかわいいよ」と、照れ返しをしてくる。



「ま、また、そんなこと…」



眼鏡なのに…。

可愛いことなんか、何もしてない。



「ほんと、いつもかわいいって思ってる。優しいし、いい子だし。俺にはもったないないって」


「乙和くん…」


「だいすきだよ」



私も大好きです。

そんな想いを、顔を赤くして伝えた。

私の彼氏の乙和くんは、いつも甘い雰囲気を出す。



「はるもおでこ出せばいいのに。はるの大きい目かわいいから」



乙和くんの言動に、いちいち心臓がドキドキしてしまう。

本当に、地味なのに。

私は乙和くんに合ってないのに。

私の容姿をずっとずっと褒めてくれる彼…。


テスト勉強中だというのに、私は乙和くんに夢中だった。



「テスト終わったら、いっぱいデートしようね」


「うん」



こんなにも幸せでいいのかと思うほど、私の心の中は晴れていて。

初めての彼氏が乙和くんでよかったと感謝しながら、その日の帰りも乙和くんと手を繋いで帰った。



優しくて、かっこよくて、笑顔が似合う素敵な恋人…。



だから私と乙和くんに合わせたくて、眼鏡からコンタクトに変えてみた。乙和くんの言う通り、おでこも少しだけ出してみた。



乙和くんは、私の変わった容姿を見て、驚いた表情をしたあと顔を赤く染め、「すっげぇ可愛いんだけど…!」と、両手で手をおさえていた。


何度も「かわいいかわいい」と呟く恋人は、甘く、私を抱きしめてくれた。



「俺のため?」


「とわくん…」


「やっば、すげぇうれしい…、俺の彼女可愛すぎない?」



私が恥ずかしくなるぐらい、眼鏡を外した私の顔を何度も乙和くんが見てくるから、私は笑顔になった。

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