第71話

その日のうちに、世界が明るくなった。


ぼやけてはいるけど、自分の手のひらが分かるほど。でもまだまだ盲目になる前よりは見えてない。

もちろん時計だって分からない。

だけど、今が朝で、今が夜だというだけでも分かれば嬉しくて。


きっと、度のある眼鏡をかければ見えるようになるのだろうけど、今眼鏡をかければ脳がそれに対応して、視力の回復がここで止まってしまうかもしれない。


早く視力を回復して、ユウリの顔を見たいというのが今の私の願いだった。

きっとユウリはすごく優しい顔をしているんだろうな…って、想像するだけでも心が綻ぶ。


視力が回復しても、ユウリはここに来てくれる。私に会いに来てくれる。

もうユウリを信用している私は、明日の朝の時間がすごく楽しみだった。



それでも、朝の時間が来るということは夜の時間も来るということで。

夜の時間は、ほぼケイシが帰ってくる。



ケイシが部屋に帰ってきて、いつも通りに煙草を吸ったケイシはシャワーを浴びに浴室へと向かっていった。


どうやら今日は、どこへ行く気もないらしく。



少しだけ見えるようになった分、足音ではなくて影が迫ってくるように見える感覚が怖くて。



ユウリに抱きしめられた感覚がまだ残ってる。この感覚を消したくない。ケイシに抱かれたくない………。

そう、思ってしまって。

やっぱり、優しいよりも、ケイシの場合は〝怖い〟が多かった。



体を押され、影が私を見下ろす。

そのまま下半身に用事がある彼は、ズボンであるジャージを脱がそうとし。



「…おい」



いつもなら無言で彼を受け入れている。怒られるのが怖いし、私はこの人に逆らう事ができないから。



力の入ってない足を抱えて、私の足をいつもなら大きく広げてるけど。無意識に私は足に力を入れてしまって。

足を開くという、言うことを聞かない私に、ケイシが苛立ったような低い声を出した。



「何してる」



何してる、分からない、足を広げたくない。

何も言わず、一向に足を広げない私の足の膝部分に手を置いた彼は、そこに力を入れた。


強引に開かされ、私は無意識に上半身を起こした。



「やっ…」



また閉じようとするけど、ケイシの力が籠っているから、太ももは閉じられず。



「……怒られたいのか?」



ケイシの体を押そうとした私に、さっきとは違いすぎる低い声をだし。

冷や汗が流れそうになって、脳に〝力を抜け、力を抜け〟と命令しているのに、体は力を抜いてくれない。



っ、と、息が苦しくなった。



閉じられない足に、泣きそうになって。



「……ベット、には、連れていかないでください……」



ベットはいや…。

ユウリに、抱かれたと気づかれるから…。

顔を背けると、バカにしたように笑った男が「お前、」と、私の下着に手をかける。



「ユウリとなんかあったろ」



ドクン、と胸がなる。

でも、大丈夫…。

ユウリは悪い事をしてない。

悪いことをしたのは──…



もう、言わなくても鋭いケイシにはバレているだろう。



「ユウリさんは、なにもしてない……」


「…」


「…好き、なんです、…抱かれたって気づかれたくない……」


「バカか、ゴミ箱にゴムあんのに気づくだろ」


「…っ、やめて……」


「やめて?中出し希望か?」


「っ…、」


「あ?浮気したんだろ?」



その瞬間、中に指が入り込んできて、顔を顰めた。



いたい、…



「…してません、」


「気持ちが向こうにある時点で浮気だろ」


「なんで、だめなんですか、」


「なにが」


「あなたは、他の女の人とホテルに行ってる……。……それなのに、どうして私はだめなの……、」


「……」


「ユウリさんを、ただ…想うのは、…悪いことなんですか……。あなたのしてる、ことは、…悪い事じゃないんですか?」


「…」



指を抜いた男は、そのまま熱を足の間に当ててくる。


そのまま挿入ってくるそれは、想像よりも痛く。いつもと違う感覚に、え…?と恐怖の中に戸惑いが混じった。



最奥まで来る間、何往復かして、完全に収めたとき、そのいつもと違う感覚が何か分かり、ゾクッと背中に悪寒がした。



「っ、やだ、やだ…!」



必死に逃れようとすれば、多分、ケイシ手が私の手首を掴み、逃げないようにソファへと押し付ける。


そのまま律動を開始し、「やめて…っ…」と、泣く私は腰や足を動かしソファを蹴った。




「うぜぇなっ!!抱きたくて抱いてるワケじゃねぇんだよ!!」



久しぶりに聞く、ケイシの怒鳴り声。



「俺だって好きな女としかヤりたくねぇよ!!」


「っ…、…〜ッ」


「初めからこうすれば良かった」


「いやです、いやっ…」


「ガキ作ればもうお前を抱かなくていいもんな」



薄い、壁の感覚がない。

いつも私の中に挿入ってくる前の、紙が切れる音もしなかった。

逃げ腰になる私の腰を、逃げ出せないように、手形が残りそうなほどの強さで掴みながら、彼は腰を強く押し付ける。

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