第8話

私はこのまま、


西条雪と結婚するのだろうか?


西条雪の子供を産むのだろうか?


家庭を築いていくのだろうか?


分からない…。


私は母のように、夫よりも3歩ほど後ろを、歩いていくのだろうか…。



「…──かさん」



色々な事を考えてしまう。



「──和夏さん」



名前を呼ばれ、ハッとし、慌てて顔をあげれば困った顔をしながら笑う西条雪が私を見つめていた。

一気に冷や汗をかき、顔が青ざめる。



「どうしました?体調、すぐれませんか?」



そんなことない。

考え事をしていたせい。

──…ホテル内で食事をし、鞄をボーイに預けている事を思い出した私は、ホッと胸を撫で下ろした。



「い、いえ…すみません…」



泣きそうになりながら、ナイフとフォークを手に持つ。西条雪と食事に来たというのに、ぼーっとしちゃいけない…。



「あまり、フランス料理は好きではありませんか?」


「…いえ…そんなこと…」


「何か好きな食べ物はありますか?」


「…えっと…」


「教えてください、今度はそこに行きましょう」



教えてと言われても…。

もし下手に言って、西条雪の好みじゃなければ…。



「いえ…私は…。西条様は、何がお好きなのですか…?」


「僕ですか?」


「…はい」


「基本、和食が好きです」



和食?



「けど、1番の好物はお好み焼きですね」



お好み焼き?


え?と、驚く。



お好み焼きって確か、キャベツを焼いた…

ソースがかかっている関西で人気な食べ物のはず。


B級グルメと言われる料理。


B級グルメは、私でも口にした事がなく。


雲の上の存在の彼が、お好み焼き…?



想像できない姿に驚いていると、軽く笑った西条雪が、「そういうのも食べますよ」と呟く。



「…そうなの、ですね…」


「和夏さんは?」


「え?」


「好きな食べ物」



また私に質問が戻ってきて、さすがに私も〝お好み焼きが好きです〟とは言えず。



「私も和食です…」



本当は、イタリアンが好きだけど。

西条雪に迷惑がかからないように、そう言った。



「では今度は和食のおすすめの店に行きましょう、きっと和夏さんも喜びますよ」



笑いながら言った西条雪に、私もゆっくりと落ち着かせるように笑った。



「はい、ありがとうございます…、すごく楽しみです」

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