five

第90話

『──…もしもし』



流雨の話を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、晴陽が言った事だった。

晴陽は確かに、私との会話の後に煙草を吸っていた。誰かを殺したい、あれは、本心なのかと。




電話の向こうの人は男の人だった。

全く知らない。

晴陽でもない、流雨でもない、柚李でもない。

どちらかというと、御幸の声のトーンに似ていたような気がして。


時刻は日付をまたいだ真夜中。

家の中は見張りがいないから。





『──…もしもし?』



なにも喋らない私に、その人の声が低くなった。




「…下足箱に、」


『え、?』


「この番号が…」


『…もしかして、〝姫〟?』




驚くその人は、『ほんとうに?』と疑ってくるけど。特に証拠もない私は、「晴陽のこと…教えて…」という。




「あなたはだれ?」



私の質問に、彼は自分の名前を口にする。名前を聞いて慌てて切ろうとした私に、その人は、止める。



『待て、切らないでくれ』と。






彼との会話はありえないことばかりだった。



『晴陽とは、親友なんだ…』



『疑うなら、松山小学校の早川晴陽を調べてみて。そこに俺もいるから』



『疑いが晴れたら、また連絡して欲しい』





そう言った彼との通話は終わった。

5分もない電話。



戸惑いが隠せない私は、暫くその番号を見つめていたような気がする。

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