第49話

「ククク・・・晴成が気に入るわけですね」


感慨深げに1人で納得してる秋道。



「迷惑なので気に入られたくないですけど」


と返した瞬間、


「ブハッ・・・」


運転席の人が吹き出した。


肩で笑ってるその人の頭を、晴成が叩く。



「笑うな。五郎丸」


「・・・五郎丸って言うんだ」


晴成の言った言葉に思わず反応したしまった。



だって・・・だって、五郎丸だよ。


反応するよね。



「あ、神田五郎(かんだごろう)って言います」


バックミラー越しに挨拶してくれた運転手はスーツ姿だ。



「はぁ・・・そうですか」


五郎丸じゃないのか・・・。



「五郎って名前だから、俺が五郎丸って渾名つけてやった」


自慢げに言う晴成を冷たい目で見た。


捻りのない渾名だな。




「響さん、少しばかりのお礼をしたいのでこの後付き合ってくださいね」


否を言わせない口調で秋道が言う。


「その言い方、私に拒否権無いですよね」


「フフフ、そう思うのでしたらそうですね」


「地味に嫌みな感じしますね」


「いえ、とんでもない」


お互いに笑ってない瞳で冷たい笑みの応酬をした。



秋道・・・かなりの腹黒とみた。



「響、お前凄いな」


「なにがよ」


「秋道と、口でやりあえる奴なんてなかなかいねぇ」


感心したように笑った晴成は、自然な感じに私の肩を抱こうとしてきた。



「近寄んな」


パシッと晴成の手を叩き落とす。


何を馴れ馴れしくしようとしてんのよ。



「ククク、やっぱ響は面白れぇ」


「・・・煩い」


晴成の笑い声を聞きながら、窓へと視線を向けた。



車は見知った街並みを抜けていく。


これ以上進むと、帰り道分からなくなりそうなんだけど。



明るいうちに帰らなきゃと心に決める。


だけど、私のそんな思いは叶わない。



それを知るのは、数時間後。




高級車は迷うことなく、何処かへと向かってる。


突然巻き込まれた出来事に、自棄に冷静な自分がいた。



隣に座る男は絶対に危ない奴だ。


今日は前みたいに血濡れてないけれど、こんな厳つい高級車に乗ってるなんて明らかに怪しい。



晴成も秋道も黒い学ランを来てるって事は高校生のはず。


運転手付きの車に乗ってるなんておかしいよね。



晴成の着崩した制服も、中に着てる赤いシャツも、間違いなく不良じゃない。



どうしてこんな奴、助けたんだろう。


車外を見つめて大きな溜め息をつく私は知らなかった。



晴成と秋道が口角を上げてアイコンタクトしていたことを。

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