第46話

「また明日ね、篠宮さん」


歩みを止めた及川君が笑顔で手を振ってる。



本当、マジで勘弁してよ。



「凄いね、及川君」


振り返って彼を見た千里が苦笑いする。



「バカなんじゃないかな」


「まぁまぁ、そう言わずに。及川君って相当響が好きなんだよ」


「迷惑以外のなにものでもない」


「及川君、いい子だと思うけどね」


「だから、余計に無理」


いい子ちゃんは、普通の恋愛をしてれば良いのよ。


私になんて構わなくても、彼を好きだと献身的な尽くしてくれる子は大勢いるだろうし。




「響はぶれないね」


フフフと笑った千里。


その時に、キーキーッとブレーキ音が鳴り響いた。


咄嗟に千里の腕を引いて、路肩に身を寄せる。



私達の隣すれすれに、急停車したのは黒塗りの如何にもな感じの車。


真っ黒いボディが不気味に見えた。



驚いて目を丸くしてる千里を背中に庇って、黒い車を睨み付ける。



車の窓が静かに降りて、そこから見覚えのあるアンバーが私を見据えた。



「よう、響」


少しハスキーなその声が私の耳に響く。



「危ないじゃない。一歩間違えれば大怪我したわよ」


冷たく言い放ち窓から顔を出す男を睨み付けた。


「悪い悪い。俺が急に停まれって言ったからタイヤが滑ったらしい」


目を見張るほどの美しい顔でその男は微笑む。



「そう言いながらも、悪びれる様子が全くないわね」


「そんな怒んなって。まぁ、響のその顔もぞくぞくするけどな」


ここにも、おかしなやつがいた。


あの夜に、こいつを助けたことを、今更ながらに後悔する。




「ひ、響、知り合い?」


怯えたような千里の声が耳に届く。


「違う。ただの顔見知り」


名前も忘れた男を知り合いだなんて言わない。



「響は、相変わらずつれねぇ」


「煩い。さっさと消えて」


周囲がざわめいてきてるから。



立戸まってこっちを見てる生徒までいる始末。


悪目立ちもいいところだ。



足音が聞こえて、慌てたように駆け寄ってくる及川君の姿があった。


彼まで来たら、相当面倒じゃない。



これって前門の虎、後門の狼じゃない?



「ククク、晴成相手にここまで言う女の子も珍しいですね」


助手席の窓まで相手、見覚えのないイケメンが顔を出して笑う。



誰だよ! お前


キッと睨み付けた私を黒髪のそいつは、物珍しそうに見る。

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