第78話

楽しいのか、疲れるのよく分からない食事会はキングの主導の元に進む。


「最近、仕事の方は問題ない?」

「はい、予約者の人も節度ある行動をしてくれてます」

あの誘拐事件もどき以来、キングは事ある毎に心配してくれる。

そして、マナーの悪い予約者は、次々と排除されていってる。


「そう。社内で何か困った事はない?」

「あ···そうですね。先輩方が良くしてくださるのでそれも問題ないです」

みんな一癖も二癖もあるけど、基本優しくて親切だ。


私の周りには、キングの専属受付係をやってる事を妬む人なんて1人も居ない。

他の部署には若干名、これみよがしに嫌味を言ってくる人は居るけど、特に何かをされる事もないしね。


「そう、なら良かった」

「心配してくれてありがとうございます。初めはどうなる事かと思いましたが、今は雇ってもらえて良かったと思える程には居心地いいです」

歩道橋で声をかけられ、半ば無理矢理就職されられたけど、今はこの会社が好きだ。


「ククク、それは良かった」

テーブルに頬杖をついて、優しくて微笑んだキングの色気がだだ漏れてくる。

それは私に向けてくれる必要のない物なんだけど。

微妙にドキドキするので止めてほしい。


「市原さんは社内や訪問者の間でも、愛想がいいと評判ですしね。これからも励んでください」

三村さんに褒められるとむず痒い。


「はい、頑張ります」

通常の受付係と裏予約の方もね。

三村さんは私の言葉に満足したように目を細めると、グラスの中のワインを一口飲んだ。


この人もあの冷たい目をしなければ、本当に美形なんだよね。

三村さんの冷たい瞳は樹と同じ類たぐいのモノだと最近気付いた。 

彼女もまたあの目をしなければ、周囲に無尽蔵に男の子が集まってきそうだもん。


「あ···」

ふっと樹の事を思い出した途端に、彼女の言葉が頭に浮かんだ。


「ん? どうかしたの、瞳依ちゃん」

不思議そうな顔で私を覗き込んだキング。

あ〜これって言っても良いのかなぁ。


「えっと、実はですね」

「うん」 

「私の友達が会社見学に来たいと」

遠回しの説明から入ってみた。


「へぇ〜うちに興味あるの子なの?」

「いえ、そうじゃなくて。私の職場環境に興味があるらしくて。凄く心配性な友達なんですよね」

あはは、と笑う。


「そう。その子は瞳依ちゃんがとても大切なんだね」

「はい」

私を心配して、社長に会いたがってるとか言いにくいな、やっぱり。

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