第31話

「ま、そうだわな?お前に言われて分かるなんて癪だけどよ?自分を見失いかけてたって分かった。」




何かをふっきった様な顔付に変わる泰雅。






「泰雅はそうやって悪態付くぐらいじゃないとね?私も張り合いないよ。」




「周りが進路や夢だの語り出してるのに、自分だけ何にもなくて、取りこのされた気がしてた。ついこの間まで、バカやってるだけでよかったのによ?銀狼の引退も12月に決まって。余計に焦り出した。」





泰雅から吐き出された言葉は、心の声だった。





「そっかぁ・・・引退も決まったんだね?」




琥珀が皆と連絡を取ってない間にそんな重要な事が決まっていたらしい。






「あぁ、決まった。俺達の後を引き継ぐ幹部候補も決まってる。」




「そっかぁ・・・。」




琥珀はそれ以上深く聞く事はしなかった。






・・・・ううん、聞けなかった。










「お前が今度は緊張した顔すんなよ!」




ぶっきらぼうにそう言うと、泰雅はポケットを漁りだした。





「何探してんの?」



と聞けば、




「煙草。」



と答える。





探してもある訳ないじゃん。





さっき、私が預かったままだし。





そう思って、自分の鞄を漁りだす琥珀。






「はい、これ。」




差し出した煙草の箱に、




「あ!てめぇ盗んでやがったのか!」



とキレた泰雅に、




「こんなもの盗むか!」



とキレ返す琥珀。








「怖いから睨むなよ!」



泰雅は差し出されたそれを受け取りながら、苦笑いする。






「泰雅が人聞きの悪い事言うからでしょうが!」




琥珀様はご立腹らしい。






「悪かった悪かった。」




そう言いながら煙草に火をつける。







「琥珀、色々噂は聞いてるだろうけど。お前は気にすんじゃねぇぞ?七瀬は自分で決着つけるしかねぇ。」




泰雅は自分の吐き出した白煙が立ち昇るのを見ながらそう言った。






琥珀が七瀬から離れてから、あいつは荒れだした。





喧嘩、女・・・・どちらも周りが手を焼くほどに。






それでも、それは琥珀のせいじゃない。






今を乗り越えるのは七瀬本人だからな?

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