第14話

「そうですか。」



翡翠は微笑み返して、差し出したリストを引っ込めた。





「じゃ、棗の好きなブルゴーニュの84年の赤にしようか?」



棗にリストを広げて見せた。





馬鹿じゃないだろうか?



フランス語なんて読めんわ。





それに誰がそんな物好きだって言ったのよ。





私はね、酒ライムが一番好きなのよ!



ワインなんて高級な物飲んだ覚えもないわ。





とも・・・言えずに、




「ええ、本当ですか?」



良く分からない物を喜んで見せた。







「ああ。支配人、これで頼むよ。」



翡翠は棗に優しく微笑んでから、支配人にリストを見せて指差した。





「かしこまりました。すぐにおもちいたします。」



支配人はリストを受け取ってお辞儀をすると、下がって行った。








残された3人の間に、異様な空気が漂う。






明らかに棗を邪魔者の様に見る牧村の視線が痛い。






やっぱりじゃん。




棗は居心地の悪さに小さく息を吐く。






「相良さん、本日はお2人でとお願いいたしましたが?秘書が同席しているのは何故でしょうか?」



キタキタ、やっぱり言って来たよ。





社長に向ける目と、私に向ける目違い過ぎでしょう。





「ええ、申し訳ございません。」



翡翠は余裕の表情で答える。




「今からでも席を外して頂きたいわ。」



さっさと立ち去りなさいよ!と言いたげに棗を睨む。






こ・・・・怖いんだって。





「申し訳ありませんが、それは出来ません。本日は一番のビジネスパートナーの牧村さんに一番にご報告したくて連れて参りました。」



翡翠はビジネスパートナーの所を強調する。




「報告とは?」



怪訝そうに顔を歪める牧村。




「ええ、こちらの彼女と先日婚約致しまして。牧村さんに是非会ってご報告をと思いました。棗、挨拶しなさい。」



良く口の回る男だと思って見ていた棗に、急に話を振った翡翠。

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