第44話

『…別に。』


「は?なんだそれ」


屋上の柵にもたれるようにして座る弘人の隣


私も静かに座り込む


校庭に出てきたクラスメイトの声が聞こえてくる


雲を切るように飛ぶ飛行機の音


鳥のさえずり…


『あの子とも、したの?』


「したよ。」


色のない声


「中3の時、一回だけヤった。」


『…好きだったの?』


「どっちでもなかった。」


『…』


「なんとも思ってなかった。」


なんとも思ってない後輩と


「誘われたからヤっただけ。」


関係を持った弘人


「今は」


そして


今は、その子のことが


「殺したいほど憎い。」


殺したいほど憎いと言う


『…』


弘人の矛盾


屈折した感情


「優は、身近な人間を亡くしたことある?」


『無い…』


「大切なものは」


『…』


「持ってない方が、楽でいいよ。」


そう言って


そんなに悲しい顔をしながら


それでもあなたは小さく笑うんだ


『…おばさんが亡くなったのって…一昨年だよね。』


だから…


『…一周忌って…誰の…』


真っ直ぐに


「…」


私を見た弘人


『…』


「俺の元カノ。」


《人を殺したことある?》


「優」


『…』


「俺が怖い?」


かすれたような


「だったらもう…」


絞り出すような


「関わらなくていいよ。」


弘人の声…


『っ…』


弘人を


「…」


抱きしめた


『弘人…』


泣きそうな顔をしたあなたを


『…私は…』


見ないように…




二人だけの屋上


遠くの方で



鳥のさえずりが




聞こえてた

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