第8話

「優帰ろっ」


『あ、ごめん。今日は達也と約束してて』


「じゃあ仕方ないかっまた明日ね♪」


『うんっ』


ロッカールームで座り込んでスマホをいじっている達也


『達也。』


「おう、遅かったじゃん」


『ごめんね、廊下で先生に捕まっちゃって。帰ろっか』


ローファーに履き替えて上靴をロッカーに入れる


「なんか食ってく?」


ロッカーの扉を閉めて


私は


達也の顔を見れない…


「…なんかあった?」


『…』


白々しい。


「おい、優。」


『嘘つき。』


「は?」


『…』


「おい、優。」


『…』


「こっち見ろよ。」


強く掴まれた腕


まだ


弘人の熱が残ってる


「怒るぞ。」


『…』


「おい。」


『私が怒ってるんだよ。』


「…」


『…』


「…弘人のこと?」


『っ』


あぁ


どうしてだろう


達也から


その名前を耳にして


何かがぷつりと途切れたみたいに


不意に


涙が溢れて止まらなくなった


「今日、お前のクラスに転校生来たんだよな。」


『…』


「…今日、その話しようと思って誘った。」


『っ…』


「…目立つから下向いとけ。」


そう言って


静かに私の手を引き


少し前を歩く達也


その背中を見て


やっぱり安心する


この後ろ姿が


ずっと


ここにあるものだと…


それが


当たり前のことだと…

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