第33話
いつだって、過去は、
一瞬で意識を引きづりこむ力を持っている。
脳裏に浮かぶユウト君の姿に、別の男の面影が被った。
ユウト君には似ても似つかない男なのに。
私をどうしようもなくさせる、そんな力が2人にはあった。
ユウト君が誰かと電話で話していることをいいことに、ボンヤリと、意識の淵を漂っていた私は、次の瞬間、ユウト君の驚いた声に体をびくつかせた。
「え…っ!マジで⁉︎」
嬉しいを通り越して驚いているような表情に見えた。それを見つめて首を傾げる。
「おっしゃー‼︎これはマジ成功させるしかないな」
そう張り切って電話口に叫んだ後興奮冷めやらず辺りを見回し、不思議そうに見つめる私に気づいたらしい。少し照れて謝るように顔の前で手を合わせた。
それに小さく首を振る。
けど、ユウト君は早々と電話を切った。
さっきまでの甘く緊張感を漂わせる空気は何処かに消えていた。
「電話、よかったのに」
「うん。まあ、ちょっとした連絡事項だっただけだから」
「いい連絡?」
「かなり、ね」
喜びを隠しきれない彼をみて、私も釣られたように気持ちよく笑った。そんな私を眩しげに目を細めたユウト君の口元がゆるゆると上がる。そして、「そーだ」と口を開いた。
「来月の13日にライブやるんだけど、イクちゃん良かったら見に来てよ」
「…7月13日?」
「そ。なんか予定あった?」
私の反応をにユウト君の眉が下がったので、慌てて首を振る。
「な、なんにもない。行けるよ!」
「ほんと!やっべぇ!嬉しい!」
今にも飛び上がってしまいそうだ。普通のライブと違うのだろうかと不思議になる。
それを聞くと、はじめて自分たちのバンドが主催するライブなのだと教えてくれた。
確かにそれは特別な日になるのだろう。
ーーそして、それは、わたしの24歳の誕生日の日であった。
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