第13話 寝室

(ヴェルデ様と、し、寝室が同じ……?)


 ガレスとの対話が終わり、二人は王城を出てヴェルデの屋敷に着いた。ローラはヴェルデに屋敷内を一通り案内され、最後に二人の寝室にやって来る。寝室の中には大きな大きなベッドが一つ鎮座しているのが見えてローラは驚いた。


「あの、寝室が一緒、なのですか?」

「ええ、お嫌でしたか?」


 にっこりと微笑みながらヴェルデはローラに尋ね返す。


「いえ、嫌というわけではないのですが……あくまでも、婚約者のふり、ということでしたよね。寝室を一緒にする必要はないのではないかと。しかも、あの、ベッドがひとつしかありませんし」


 ヴェルデが嫌というわけではないのだ。ただ、こんなにも美しい見た目の殿方と一緒の寝室というのは正直心臓が持たない気がする。ローラが遠慮がちにヴェルデへ言うと、ヴェルデは微笑みを絶やさぬままローラの片手をそっと取り、静かに口を開いた。


「ローラ様を、夜に一人にしておくのが心配なのです。私は、どんな時でもこの国でローラ様が心細い思いをしないようにしたい。それに、またローラ様が一人でどこかにいなくなろうとされるのが一番困る」


 真剣な目でヴェルデはそう言うと、ローラの手をきゅ、と握った。強すぎるわけではないが、その手からは熱さが伝わってくる。


「そんな、ここでヴェルデ様と共に生きていくと決めたんですから、もうどこかにいなくなろうなどと思ったりしません」

「本当に?」


 そう言ってローラを見つめるヴェルデの瞳には、不安がこもっているのがわかる。


(私は、この方をこんなにも不安にさせてしまったのだわ。私は、本当になんて酷く、残酷なことをしてしまったのかしら……。せめて、この方の気の済むようにしてあげたほうがいいのかもしれない)


「本当です。……ですがヴェルデ様がこうすることで安心するのであれば、寝室は、……その、一緒でも構いません」

「本当に!あぁ、良かった」


 少し照れながら言うローラの言葉に、ヴェルデは目を輝かせて喜んでいる。優しく手を握りながらローラを見つめるヴェルデの瞳には、深い深い優しさが広がっていて思わずローラはときめいた。


(こんなに優しくされてしまうと勘違いしてしまいそうになる。でも、この方はきっと私を目覚めさせてしまった後悔と義務感からきっとこうして尽くしてくださっているのだわ。そんなことはないと言ってはいたけれど、きっと無意識なのではないかしら。それでも、こうして私のために心を尽くしてくださるのだから、早く安心させてあげたいわ)




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