第411話


「聞きたいこと、あるんなら、どーぞ」


どうやら私は、椿の領域に、踏み入れても良いらしい


そう言ってくれた椿に甘え、私は気になることを聞いてみた



「ひとり暮らしの期間は、もう長いの」



「あぁ。俺がNIGHTSに入って幹部に上がった時ぐらいだから、長いんじゃねーの」



「どうして、椿はひとり暮らしを?」



椿は躊躇いもなく返答をしながら、その年数を数えるように 1.2.3と指を追っていく中で、


私が追加で質問をした時、奴のその指の動きが止まった



あまり、聞かれたくない事だっただろうか

それならば、私は無理に知る必要はない


やっぱ、いい。 と、言おうとした私より先に再度口を開いたのは椿の方だった



「゛ひとりで暮らしてみろ゛そう言って、マンションの鍵と通帳を親から渡された。んで、そっから何となく」


あっけらかんとそう言って、苦笑いを浮かべる奴からは、本音など分かるはずもない



「それは、何故?」


私自身、゛親゛という定義は分からない

唯一、紙面上でそう部類されるであろうあの人は、義父であり、本当の親ではない


本当なら、親とはどんな存在で、どんな関係性が正解なのかなんて知る由もないが、

親からひとり暮らしを、ましてや成人をしていないうちに自身の子に勧めるなどしないはずだ


けれど、

陽向の母親……サキがそうであったように、椿の親も、そんな事を脳裏に考える



「俺の親父、警察関係者でさ、それも、かなり役職の高い上層部の人間。あまり表立っては顔が出せねぇレベルにはな」



どうやら今日は、椿の発言で何度も驚かされる日らしい


まさか、ここで椿の親の事情を聞くなど思ってもいなかった


自分で尋ねておいて、返す言葉を探しているうちに、椿は更に話し始める



「自分の息子が暴走族で、しかも2番やっている。

その組織での自分の肩書きや、体裁を守るには、少し距離を置いておくのは当たり前の話だろ」



その言葉に全ての事情や背景が物語っている気がした

これに関しては、きっともうこれ以上私が首を突っ込むことではない


私は、自分の頭の中の質問箱にそっと蓋を閉じる



「椿は、強いね」



奴の本当の気持ちが言葉に乗る事はなかったが

親と自分の立ち位置を、その境界線を、

椿なりに見つめ、理解して納得させていた


その表情に、迷いも悔しさもなくて、


そんな椿は、私なんかより遥かに大人で、強かった



「うん、本当に。流石、NiGHTSの2番を張っているだけある」


確信を得るように噛み締めながらそう言って、口角を上げた


「見直したか?」



「相変わらずの男前だな、って思った」



意地悪く笑い返す椿に、私は同じように笑った

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