第71話

―――それからどのくらいの時間が経ったのか分からない。



拓実君は帰る事もせずアタシの傍に居た。



すると、アタシの携帯の着信音が鳴る。


アタシは涙と汗が混じった手でそれを取る。



「あっ…、」



思わず声が出てしまう。アタシの声に拓実君はディスプレイを覗き込む。



「恭子…?」



「う、うん。どうしたんだろ…。」



「ちょっと待って?俺の携帯マナーモードにしてるんだ。あいつ俺を探してるんじゃないのかな。」



拓実君はそう言いながら自分の鞄から携帯を取り出す。



「やっぱり…。メールと着信音凄い。」



「じゃあ出なきゃ、」



アタシは通話ボタンを押そうとした。



だけど、



「出なくていい。」



そう言って拓実君はアタシの携帯をテーブルに置いた。




恭子からの着信音は長く続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る