第一章 第4話 熊さんに…… リメイク版

 空は惑星イオへの転送の瞬間、思わず目をつむった。次に目を開けたとき、自分が美加に後ろから抱きかかえられ、空中を飛んでいることに気づく。


「うあっ!」


 驚いて声を上げた瞬間、美加が微笑んで声をかけてきた。


「空、起きたのですね」


 どうやら少しの間、気を失っていたらしい。


「ごめん。というか……この状態、何?」


「とりあえず、町の近くへ降りましょうか」


 そのとき、空の頭の中に声が響いた。


(助けて……誰か、助けて)


 女の子のような声だった。


「美加! どこかで誰かが助けを求めてる!」


「では空のスキル《無空間》を使って、場所を探してみてはどうでしょうか?」


「わかった、やってみる!」


 《無空間》は探索用のスキルで、球状に展開され、内部の物や音、魂の状態すら感知できる。特定のものだけに焦点を当てることも可能で、目的地の探索に非常に役立つ。


 空がスキルを展開すると、周囲の音がすっと消え、特定の声がはっきりと聞こえてきた。声は、現在地から南西――ミラー領の樹海近くから発せられていた。


「美加、声は南西の樹海の近くだ!」


「南西ですね、わかりました」


 美加はすぐさま高速で南西へ飛び始めた。目的地が見えてくると、声がさらにはっきりと聞こえた。下を見ると、少女が巨大な熊のような生き物に追いかけられていた。


 その生き物は止まりながらゆっくりと進んでいたが、少女が危険な状況なのは明らかだった。


「美加! あの熊に向けて私を落としてくれ!」


「いいのですか?」


「私を落としたら、女の子を頼む!」


「わかりました。くれぐれも無茶はしないでくださいね!」


 美加は空を熊目掛けて落とし、同時に少女を保護しに行く。


 空は足から落ちキックを決めるつもりだったようだが、頭から落ちてしまい、体勢を変えることも飛ぶこともできず、そのまま熊の頭部に激突。


「わっ!」


 鈍い音と共に熊と空がノックダウン。美加は少女に目隠しをしながら呆然とする。


 先に立ち上がったのは空だった。ダメージはないようだが、熊はまだ意識を失っている様子だ。空が美加に大丈夫の合図をし保護した少女を見ると、少女は七〜八歳ほどで、セミロングの髪、やや傷んだ服に薬草らしきものを入れた手提げバッグを持っていた。


 空が声をかけようとしたとき、熊が意識を取り戻し始めた――と同時に「助けて……助けてくれ……」という声が再び聞こえる。


「空、どうやらその熊の魂から直接語りかけているようです」


「なるほど……じゃあ、これでなんとかなるかな」


 空は再び《無空間》を展開。熊の魂魄を見ると、魂は青(正常)、魄は赤(敵意)に染まっていた。これは、魂は正常だが肉体が魔物のように暴走している状態である。


 空はスキル《調律》を使い、熊の状態を調整。しばらくすると、魄の赤色が青に近づき、暴走が収まっていった。


 そして――


「ありがとう、兄さん!」


 突然、熊が話し始めた。


「俺はミラー城塞の冒険者、メイソンという者だ」


 空は安全を確認し、詳細を聞く。


 メイソンは黒い霧に包まれ意識を失い、目覚めたら熊の体になっていた。理性はあるが体が勝手に動き出し、魔物を襲ってしまう。魔物に襲われそうだったエミリを運良く救ったあと、体は制御できず彼女を襲いかけてしまったという。


 その後、空たちに出会い助けられたことをメイソンが語ると、少女――エミリは涙を流して熊に抱きついた。


 空は、こうした変化が他にもあるのではと尋ねた。


「わからない……他を見る余裕がなかった」


 その後、メイソンの友人リアムの家を訪ねるため一行は出発。一時間後、家に到着するとエミリがドアをノックし、リアムが応対。


 熊を見て驚いたリアムだったが、熊にあだ名で呼ばれ、状況を把握。空たちにも感謝を述べた。


 ただし熊の姿のままでは家に入れない。


「なんとかならないか?」とメイソンに言われ、空は《無空間・調律》を内向きに圧縮。すると、メイソンの体は三メートルから百九十センチほどまで小さくなった。


「これで入れる!」


 その後、食事をしながら情報を共有。魔王軍は黒い霧以降、進軍を停止したが、生還者は少なく、まだ霧の影響で姿を変えた者がいるかもしれないという。


「この熊がギルドの英雄・メイソンだと分かれば、皆もすぐに信じてくれるでしょう」


「それまでに、元に戻る方法を見つけたいもんだな」


「まあ、そのままでも似合ってますよ」


「ぬかせ!」


 笑いの中、惑星イオへの転送初日は、リアムの家に泊まることになった――。

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