第308話冬が終わり、20年目の春へ
冬はすることが少ない。
とはいえ、家畜の世話と、ビニールハウスの中のものの収穫。
貯まっている収穫物の加工とか、雪かきとか忙しい。
それに光たちは精霊と妖精の愛し子とはいえまだ一歳にもなっていない赤ちゃんだ。
光たちの世話が最優先になる。
そんな光達の赤ちゃん用の服をせっせと作ってくれた織姫には感謝しかない。
ただ、それを一人でやるわけじゃ無い。
昔なら一人でやろうとしたが、今の私は違う。
アルトリウスさん、アインさん、ティリオさんたち夫組と、晃、肇、音彩の子どもたちに手伝って貰って居る。
お陰で私は無理しなくて済む。
「「「まぁま!」」」
よたよたと歩いて私に近づく光たち、私は駆け寄り抱きしめる。
「凄いね、歩けて! 偉いね!」
「あうー!」
「きゃあうー!」
「きゃっきゃ!」
三人三様で喜びを露わにする。
そんな風にあやしていると視線を感じる。
ちらりと見ればどこか羨ましそうにしている晃達。
私は笑みを浮かべたまま手招きする。
「晃、肇、音彩、おいで」
そう言うとぱぁっと明るい表情になり、晃達がやって来た。
そして三人を抱きしめる。
「貴方達も大好きよ。私の自慢で素敵な子どもたち」
「私も、母様が大好きです」
「私も母さんが大好きです」
「私もお母様が大好き!」
そう言って抱きしめ返される。
「あーぶぅ」
「あーあー!」
「ぶーぶー」
そうすると、赤ちゃんズの光太刀がこっちを見てと言わんばかりに声を上げてきた。
「貴方達も大好きよ」
そう言って頭を撫でて、背中を撫でると、私の膝にのしのしとあがってぎゅうと服を引っ張る。
「まんまー」
「まんま!」
「まんま」
「はい、男衆は出て行った出て行った!」
音彩が晃と肇の背中を押して家から出て行った。
私はまだ時折おっぱいを欲しがるなぁと思いながら光たち赤ちゃんズにおっぱいを上げた。
「そういうことか、音彩が家の前で立ち入り禁止モードになっていたのは」
アルトリウスさんたちが帰って来ると、リビングでそうぼやいた。
「ごめんねー見られるの恥ずかしいから」
「それなら仕方ないだろう」
「そうですね」
「はい」
理解力のある夫たちで助かる。
マリア様達とのやりとりも順調だった。
ルキウス君派の奴らは吹雪が晴れたら騎士団に連れて帰られたし。
音彩が誘拐されることもない。
イザベラちゃんたちとのやりとりも順調。
取りあえず、余計なことがなく冬の終わりが近づいてきた。
一歳のお祝いをする。
といっても離乳食で好きなのを出してあげるだけなんだと。
光たちは美味しそうに食べた。
私達は普通の食事を食べた。
もう少し大きくなったらご馳走をだすようになるだろう。
そして冬の終わりが近づいたことで──
「帰るぞ」
「はい、マリア祖母様」
「みんな、忘れ物はない」
「はい、お祖母様」
皆荷物の確認などをして侍女さんたちが見回って無いのを確認していた。
「忘れ物はないな、では帰るぞ」
「マリア様、今年も楽しめたでしょうか?」
「愛し子様、勿論ですとも」
冬に宴、餅つきなどがお気に召していたようで何よりだ。
餅は喉をつまらせるのは誰も居なかったし。
イザベラちゃんたちも──
「コズエ様、今回もとても楽しかったです!」
「楽しかったです!」
「楽しかったです!」
「いい勉強になりました」
「はい」
「また、次の夏」
「はい」
そう言ってイザベラちゃんたちも帰って行った。
そうして──
『春ですよー』
『春ですー』
という声が聞こえた。
春の訪れだった。
20年目の春の訪れ──
と、言っても何か特別なことをする訳では無い。
いつも通り、畑を耕し、種を蒔く。
そしてあっという間に成長した作物を収穫する。
その繰り返し。
「ああ、もう直ぐ誕生日ね」
「晃と肇と音彩の14歳の誕生日」
目を細めて空を見上げた。
「どんな誕生日にしようかしら──」
私はそう呟いて家へと向かった──
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