第70話移住希望者達の自己紹介~褒め殺しは勘弁~



「私の名前は梢。御坂梢と申します。神々の愛し子としてこの土地の管理を任されています」

 まずは私からもう一度自己紹介。

 すると、先ほど馬車に隠れていた方が口を開いた。

「私はアシュトン・ヴァンダーデ。こちらが妻のレベッカと、娘のスピカです。全員吸血鬼です」

「初めまして、アシュトンの妻レベッカと申します」

 レベッカさんはおっとりと喋る。

「初めまして、皆様。娘のスピカです」

 娘さんのスピカさんもおっとりとしゃべっている。

「ヴァンダーデ公か、貴殿は武術のたしなみは?」

「たしなむ程度なのであまり期待はしないで下さいエスペルト卿」

「それは残念だ」

 本当に残念そうにしてるよ、この吸血鬼。

「では私が次名乗ろう。私はライガ・エスペルト。そして妻はレラ、人間だ。そして娘はダンピール、名をエデと言う」

「妻のレラです、宜しくお願い致します」

「えでです、よんさいです」

 レラさんとエデちゃん、そしてライガさんが自己紹介を終える。

「では次は私だな。私はレイド・エフォドス。妻はフロウ。息子はアンバル。娘はライラックだ。全員吸血鬼だ」

「は、初めまして、つ、妻のフロウです……」

「初めまして、息子のアンバルです。どうぞ宜しくお願い致します」

「初めまして、娘のライラックです。どうぞ、宜しくお願い致します」

 レイド様、フロウさん、アンバルさん、ライラックさんが名乗った。

「そしてそこのダンピールは?」

 レイドさんがアルトリウスさんを見る。

「私はアルトリウス・ミストリア。カイン・ミストリアの息子だ」

「あのカインのか!」

「だが姿も気配も無いぞ?」

 ライガ様と、レイド様が首をかしげる。

「父は、イブリス教徒から私と母を逃がすために亡くなりました……」

「惜しい男を亡くしたものだ……」

「全くだ……イブリス教徒め」

「まぁ、そのイブリス教の連中は色々あって神々に呪われに呪われまくって今は家の外から一歩も出られん体になっているがな」

「噂には聞きましたが、真実なのですねエンシェントドラゴン様」

 クロウは頷く。

「それもこれも、愛し子──梢にちょっかい出したのが原因だ」

 エデちゃん以外が私を凝視する。

 私は無言で目をそらす。

「梢はこう見えて慈悲深い、自分から本拠地を潰しにはいかんがその結果神々の怒りを買う羽目に連中はなった。この始祖の森に立ち入ろうとするからだ」

「始祖の森の吸血鬼の愛し子の話は大分前から噂として流れていましたが、事実だったのですね」

「そうだ、梢は吸血鬼だが、数々の神々の祝福を受けている。それ故流れ水も白木の杭も大蒜ニンニク効かぬ」

「それは凄い……!」

「エンシェントドラゴン様、愛し子様の実力は?」

「本気を出したら我の体が吹き飛びボロボロになるだろう」

 ライガ様とレイド様が凝視する、視線が痛い。

「まぁ、あくまで本気を出せばだ。梢はそんな事はせぬ、畑仕事と聖獣の世話が好きな娘だ」

「勿体ない……」

「ああ、実に勿体ない……」

 勿体ない言われても私はびびりですから喧嘩なんてしませんよ。

「お前達、くれぐれも梢に喧嘩を売るな。梢は自分の力を制御できてないから何処まで吹き飛ぶか、それとも全身破壊されるかわからんぞ」

「クロウ、ちょっとグロテスクな表現は止めて。想像してしまうから」

「すまない」

 こう言う時想像力が働く自分が恨めしい。

「ところで移住についてはどう考えている?」

 ヴェロニカさんが尋ねた。

「手合わせできなくなるのは寂しいが、妻と子の安全には変えられぬ。移住したいと願ってきた」

「私もだ、妻と娘の安全は何よりも大事だ」

「私も、妻と娘の安全な場所がそろそろ欲しかったところです。夜の都は相性が悪いもので……」

「ああ、分かる。あそこは相性が悪い」

「あそこの空気には耐えられんよ」

「……」

 夜の都って相性悪い人にはとことん相性悪いんだな。

 フレア君とミラちゃんも相性が悪くて、ヴェロニカさんも相性が悪かったから移住してきたもんね。


「このあかくてぷるぷるしてるのとさくさくしてるのと、ぶらっどてぃーのおかわりほしいの!」

 エデちゃんが空気を読まずにおねだり。

「はい、いいですよ」

 シルヴィーナがブラッドティーを入れ、私はアイテムボックスからゼリーとロシアンクッキーを取り出し、エデちゃんの皿に盛り付ける。

「おねえちゃんたち、ありがとー」

「どういたしまして」

「まだあるからね」

 と、その言葉を聞いた子ども達がそわそわ。

 アンバル君は父親レイドさんの顔を窺っている。

「……好きなようにしろ、菓子など私は作れんからな」

「……‼ はい、あの、おかわりください」

「私にもおかわりを」

「私にも……」

 アンバル君、ライラックさん、スピカさんの三人にもゼリーを出す。

 子ども達は新しいゼリーを美味しそうに食べている。

「……あ、あの、これはブラッドフルーツでできたものですか?」

 フロウさんが尋ねてきた。

「はいそうですよ。宜しければ作り方教えましょうか」

「! ぜ、是非!」

 フロウさん、何かびくびくしてるけど、何かあったのかな。

「あ、あの……」

「何でしょうか?」

「イブリス教の信者達はこの森には入れないんですよね」

「はい、入れません! というか私の知り合い達に危害を加えようとしたのを神様に文句つけたらイブリス教の信者は朝も昼も夜も家から出られない存在になってしまったみたいですので」

「ほ、本当ですか⁈」

「梢は嘘を言ってはおらぬ、この森にいる限りイブリス教も元デミトリアス聖王国のデミトリアス教の連中も手出しはできん安心せよ」

「よかった、本当によかった……」

 フロウさんはぽろぽろと泣き出した。

「どどど、どうしたんですか⁈」

 私は狼狽えてしまう。

 するとレイドさんがフロウさんを抱き寄せた。

「すまんな、我が妻は家族をイブリス教の信者共に殺された事が原因でイブリス教に恐怖心を抱いて居るのだ、この村にはいるのか」

「居ないな、この国の始祖の森に近い街から追放されたデミトリアス教の司教はいるが」

「ど、どのような事情で?」

「この森に教会を作れと命令されたが断った結果孤児院の子ども共々街を追い出され、すがる気持ちでここに来たのだそやつは。まぁ、悪さはしないし子ども等に文字や算数を教えているからなシルヴィーナと共に」

「シルヴィーナ?」

「私のことです」

「ハイエルフ……どうして吸血鬼と暮らせるの?」

「コズエ様の人柄でしょうか? 愛し子でありながら偉ぶることもせず、子どもみたく目を輝かせるところもあれば、他人のために怒ることができ、その一方で自分の事ではうじうじしたり、責任重大な仕事を押しつけられてもやってやんよ! の精神で対応し、それでいて困っている人はなんだかんだで受け入れて皆と仲良くさせる努力を無自覚にしてくれるんです。本当コズエ様は素晴らしい御方です」

 おおう、シルヴィーナ。

 輝かんばかりの笑顔で言ってるが、ちょっと勘弁してくれ。

 私はスローライフを楽しみたいだけの吸血鬼になった元人間なんだ。

 聖人君子なんかじゃないし、かといって責任感のある君主でもない。

「コズエは自己評価が限りなく低い、最大の欠点だ。この所為で三人の夫に告白された時逃亡したからな」

「え、結婚なされてるのですか⁈」

「ええ、まぁ……」

「ちなみに三人が相談して三人全員を夫にするよう言った結果だ、梢が三股かけた訳では無い、恋愛すっ飛ばしての告白だったなアレは……」

「クロウ様知ってるんですか⁈」

 シルヴィーナ、頼む、黙ってくれ。

 クロウもお願いだから黙って。

「村人の連中は全員夫三人が梢に恋慕を抱いてるのに、梢は一行に気づかない──いや、リサに言われたのに信用せず頭の隅っこに置いた。どうせ『自分みたいなへちゃむくれがあんな美形集団に愛される訳がない』と自己評価を下したのだろう。甘い甘すぎる、奴らがお前の顔に惚れた訳では無いが、お前の顔の良さをよく知っている」

「そうですね……吸血鬼とは思えない程ぱっちりとした赤い目、整った眉。薄紅の唇。血色の良い薄紅の肌整った顔立ち……髪は夜の帳のように黒く、それでいて青く美しい色……」

 ふ、フロウさん、そういう風に言わないでくださいな。

 照れます、恥ずかしい。

「妻が褒めることはあまりない、誇っても良いのですよ。愛し子様」

「は、はぁ……」

「コズエ様、顔真っ赤ですよ?」

「ほ、褒められ慣れてないのよ!」

 シルヴィーナに言われて私は余計顔に熱がくるのを感じた。

「ちょ、ちょっと風当たってくる! クロウ話を進めておいて!」

 私は屋敷を飛び出して広場へと向かった。


 散り際の桜の木に寄りかかり、暖かな風を感じ取る。

「はぁ……」

「どうしたんだ、コズエ」

 アルトリウスさんが追いかけてきた、その後ろにはアインさんとティリオさんがいる。

「コズエどうしたのです?」

「コズエ様、どうかなされました……顔が赤いですよ?」

 ティリオさんがそう言うと、アルトリウスさんが私の額に手を当てた。

「……熱はないようだ」

「えっとその」

「誰かに口説かれました?」

 アインさんに言われてブンブン首を振る。

「では、何があった?」

「……」

「もしかして、褒められたのが恥ずかしいのか?」

「うう~~そうだよ、恥ずかしいんだよ!」

「そうか、ならば私達はもっと褒めないといかんな」

「そうですね」

「はい」

 ちょっと勘弁してよ~~‼


 その日は夜中を過ぎるまで、三人の褒め殺しに顔を赤くして絶叫して逃げ出したいのを我慢する羽目になりました。

 とほほ……





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