第242話
「それでは、リスのベルンをここへ」
女神アメリアーナがそう宣言すると、彼らの前にあるテーブルの上にリスが現れた。
「す?」
リスは突然の出来事に驚いて辺りを見回したが、トーリとマリンがいるのを確認すると、驚くべき行動に出た。
すなわち、彼らを背に守り剣の柄に手をかけるとアメリアーナとツトムンを
「えっ、なに、このリス氏、超かっこいいんですけど! 僕は惚れてしまいそうですよ!」
ツトムンが、小さな身体で精一杯仲間を守ろうとするリスの姿に感激した。
「ベルン……」
「ベルンちゃん……」
いきなり女神の作った異空間に呼び出される、という非常事態なのに、身を挺して自分たちを守る行動をとったリスを見て、トーリもマリンも胸に熱い想いが込み上げて来て止まらない。
女神アメリアーナは、優しく微笑みながらリスに声をかけた。
「大丈夫ですよ、リスのベルン。わたしたちはトーリたちの敵ではありませんし、むしろ大切に守りたい存在だと思っているのですから。わたしの名はアメリアーナ。調和の女神であり、トーリとマリンに加護を与える神です」
「す……」
アメリアーナの言葉に邪意のないことを野生の勘で感じ取ったリスは、警戒態勢を解くと『これは無作法な振る舞いを。美しいお嬢さん、申し訳ない』と頭を下げた。
「まあ、勇敢で可愛くて素敵なリス……」
女神アメリアーナは予想外のお嬢さん扱いに頬を染めてしまった。これにはさすがの女神も感じ入ってしまったようだ。
女神すらも
「ええと、リスのベルン、あなたはトーリとマリンをとても大切に想っているのですね」
「す、す」
女神がそう尋ねると、リスは『ん、まあ、そうですね』と少し照れたように目を逸らして『仲間だから』と呟いた。
「ベルンちゃん、ありがとう! 大好き!」
「す」
マリンは愛情にとても敏感なので、感極まってリスを手のひらに乗せると「大好き、大好き、可愛い、可愛い」と頬ずりをした。可愛いと言われると喜びを感じる小動物はとても嬉しそうで、『実は自分もね、大好きです』とそのまま彼女の肩におさまった。
「ちょっとやけちゃうなあ」
トーリはそう言いながらも、ふたりの仲の良い姿を見て心を和ませていた。
話をツトムンが引き取り、この三人は前世からの知り合いであること、トーリとマリンは黒いモヤモヤする謎の物体のせいで酷い目に遭い、命を落としてしまったので、調和を取るためにこの世界に転生したこと、そして幸せに暮らしていることをベルンに説明した。
普通のリスにしては賢過ぎるベルンは、黙って話を聞いてからひとつ頷き、労うようにトーリとマリンの頬を撫でた。思いやりのあるリスである。
「このような事情で、わたしは黒いモヤモヤしたものを放っておくと日本はおろか地球上に悪影響が及ぶと考えて、なんとか消滅させようとしました。けれど、それはとても難しくて……」
「神が手を出すと影響が大き過ぎて、逆に世界を滅亡させかねないという話は以前にしましたよね。どのくらい難しいかというと……高枝切り
「うわあ」
「やだあ」
トーリとマリンは思わず両目を押さえてうめいた。もしも手元が狂ったら……考えると恐ろし過ぎる。
「女神アメリアーナは細心の注意を持ってモヤモヤに対処し、幸い浄化することには成功したのですが、その後に副産物として強大な魔力の塊が生まれてしまったのです」
トーリは『ええっ? 地球上に魔力が? もしかして、僕の家族が危ない目に?』と肝を冷やした。
「わたしは魔力を回収しようとしたのですが、それはあまりにも強い力だったので、次元の隙間から飛び出してしまって……。別の世界の地球、パラレル地球とでも名付けましょうか。そのパラレル地球に飛び込んで、そこにダンジョンを形成してしまったのです」
「パラレル地球?」
「ええ。地球に似ているけれど、そこに生きる人々は地球とはまったく別の人ばかりなのですよ。そして、地球とは違って太古の怪獣がたまに現れたりしています」
「怪獣が出るんですか!」
トーリは『もしかしてゴ◯ラが実在する世界ですか? それはまったく別の地球ですね』と思った。
「わたしがその世界から魔力を引き上げようとすると、さらに大きな影響を及ぼすことになります」
ツトムンが「核ミサイルで蚊を叩く感じですね」と言ったので、トーリとマリンは「女神様、落ち着いてください!」「それはやめて差し上げて!」と叫んだ。
「ええ、わたしもパラレル地球を破壊したくありません。けれど、それまで魔力がなかった世界に突然ダンジョンが現れたら、人々は対処に困り、そうこうしているうちに巨大化して魔力を放出し、魔物が無抵抗な罪なき人々を襲う世界に変わってしまいます。そこであなた方にお願いがあるのです」
女神アメリアーナはトーリたちに「トーリ、マリン、ベルン、そしてツトムンの四人でパーティを組み、パラレル地球に行って、ダンジョンでの戦い方を人々に伝えてくれませんか?」と頼んだ。
「パラレル日本は、現代の日本にそっくりな場所で、人々の考え方もよく似ているのです。そこで、日本から転生したあなた方と才能あるベルンにお願いしたいのです。冒険者としてこの依頼を引き受けてくれませんか?」
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