大津皇子と石川朗女
第1話
漢詩集の『
また「
彼は
また子供のころは、彼が5歳の時に母親の大田皇女が亡くなり、その後は同母の姉である
その後姉の大伯皇女のほうは、
また彼には他に
だが彼の母親が天皇の皇后であるのに対して、自分には母親が既におらず、同母姉も伊勢にいる。そのため今の置かれている状況を考えると、彼の立場は弱かった。
彼の唯一の救いは、父親の天武天皇との信頼関係だけである。
そんな大津皇子ではあるが、ある時彼は1人の女性に恋をしてしまう。その相手とは女流歌人の
だが彼女は、大津皇子以外にも何と草壁皇子からも想いを寄せられていた。
そんな微妙な関係の中であっても、大津皇子の石川朗女への想いはとても強く、皇子の彼女への気持ちは日に日に深かまるばかりである。
「もちろん、草壁の兄上に対して申し訳ない気持ちはある。だがそれでも俺は彼女が諦めきれない……」
対して石川朗女のほうも、そんな純粋に気持ちを向けてくれる彼に、次第に好意を抱くようになる。
だがそんな2人を気がきでない思いで見ていたのが、大津皇子の異母兄である草壁皇子だった。
「
※大名児:石川朗女
(大名児のことを、野に刈る草の束のように、ほんのわずかの間も忘れたりはしない)
彼は心配の余り、こんな歌を詠んで、石川朗女を何とか自分に引き止めようとする。
相手はあの人望の厚い大津皇子だ。彼女がそんな彼に心引かれても何らおかしくはない。
つまりは石川朗女という1人の女性を、2人の皇子が取り合う形となってしまった。
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