第25話
鶴田の過去
貧乏だからしょうがないのよ
可哀想ね
大人のエゴは僕を刺した
2歳のとき両親が失踪
警察により施設に預けられ
高校を卒業するまで
仲間と暮らした
まるで兄弟のように
寂しくなんかなかった
可哀想でもなかった
なぜなら失っていないからだ
あったものが無くなると人は寂しさを感じる
元から無ければなにも感じないのだ
僕は虚しくなんかなかった
そんな18歳になったとき
僕はある日都会のど真ん中にいた
死ぬ前に大都会を味わってみたかったから
歩道橋を渡ろうとしたとき
なぜだか人だかりができていた
そこには高校生だろうか
僕より少し若い女の子が
真っすぐ遠くを見つめ
今にも落ちそうに立っている
早く降りなさい!
若いのになにしてるの!
ああ、日本人は変われない
ずっと周りと横並びにしようとするのだ
僕は通り過ぎようとしたが
たまたま横を向いた女の子と目があった
その子は田舎では見たことのないような
都会的な女の子だった
女の子といっては拙い
凛とした女性だった
長く透き通るような青味がかった黒髪
大きく茶色い目
繊細なまつ毛
細い身体
緊張感のあるその場にふさわしくない
男の性に自己嫌悪に陥った
“もったいない”
単純な思考から気づいたら
彼女の手を取っていた
“なんで死にたいの?”
“疲れたの”
“何に疲れたの?”
“生きてる意味がないの”
“お母さんは?”
“いなくなった”
“お父さんはもともといない”
“お母さんのこと恨めばいい”
“恨んで恨んで生きろ”
“やだよ”
“なんで?”
“そんなの意味ある?”
“意味なんてなくていい”
“どういう意味”
“君みたいな人は生きてるだけでいい”
“なにそれ”
“自信を持って生きな”
抱えているものは人知れず
だからって死ぬのは大間違いだ
そう自分に言い聞かせた
そして彼女と共有した
生かしてもらった命
無駄にしてはいけないんだ
気づけば彼女を降ろし
ふわりと抱きしめていた
泣きじゃくる彼女を待機していた警察に
引き渡し帰宅しようとした
その時だった
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