第36話

翌日。

橘内さんが手配してくれたタクシーで、ランチ会の会場となる大通りに面したレストランへ。


オープンキッチンの店内は明るく開放的で、カウンターにはパスタや、色とりどりの野菜のサラダ、肉料理や、焼きたてのパンが所狭しと並んでいて、女性客が、自分で好きなものを取り、お皿に乗せていた。

福光さんの奥様がどこにいるのか、顔も分からなくて、カウンターの辺りをうろうろしていたら、


「もしかして、槙さんの奥さんかしら⁉」


おばさんくらいの年齢の女性が声を掛けてくれた。すごく上品で、華やかな感じがする。


「はい、ナオと申します」


深々と頭を下げた。


「福光みさです。今日は、来て下さってありがとう」


「あの、その・・・驚かないんですか⁉」


奥さんが、゛男゛ならーー普通なら、びっくりしたり、冷やかしたりするのに。


「福光派には、同性愛者である事を公表している議員が所属しているから」


あれ⁉

もしかして、一樹さんが話していた人かな⁉


「こっちよ」福光さんに案内され、窓際のテーブルへ移動した。


「皆さん、槙一樹さんの奥様のナオです」


二テーブルに四人ずつ腰を下ろしていた。皆さん、綺麗な方々ばかりで。僕みたいな、田舎者には、あきらかに場違いな雰囲気。


「ナオさんは、佐藤議員の奥様の隣に座って」


福光さんに言われ、キョロキョロ辺りを見回した。すると、一樹さんくらいの年齢の女性が手をあげてくれた。


「ナオさん、こっち」


椅子を後ろに引いて、「ここにどうぞ」みたいな感じで、案内してくれた。


「すみません、ありがとうございます」


「吉崎真弓です。やっと本人に会えた‼」


歓声を上げ、座るなり手を握られ驚いた。

吉崎・・・さん⁉あれ苗字が違う⁉


「ごめんなさい、声が大きいのは元々で。五月蝿いけど気にしないで」


初対面の僕に、彼女は、にこにこ優しく笑い掛けてくれた。同じテーブルに座っている奥様たちを紹介してくれたり、一緒に、料理を取りに行ったりしてくれた。


僕が一人きりにならない様、気を遣ってくれた。


「私のパートナーは、佐藤かずさ。一樹と同じ同性愛者よ。一樹と私達は大学の同期なの」


「そうなんですか。すみません、何も聞いてなくて」


「ううん、彼に、私から話しをしたいって頼んだから、気にしないで。一樹からね、十三も年下の男の子と付き合う事になったって聞いて、私もかずさも吃驚よ。だから、ナオさんに会えるのすっごく楽しみにしていたの。やっぱり、『ナオくん』の呼び方の方がしっくりくるかな⁉」


「好きに呼んでください」


「でも大変でしょう⁉一樹の子守り」


「そんな事ないです」


ぶんぶんと頭を振った。

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