第20話
「でもまさかここで
厩戸皇子が
「今日は、
「まあ、それは残念ですね」
恵慈は飛鳥寺を住居として生活しながら、厩戸皇子と一緒になって、仏教の教えをこの国に広めようと、日々邁進している。
また厩戸皇子自身も、日頃の学びの成果として、
(厩戸皇子は本当に何でもお出来になる方。その能力と才能を、私もほんの一握りでも良いから欲しいぐらい)
彼女がそんなことに思いを巡らせながら、ふと皇子の持っている
(うん?一体何だろう)
「厩戸皇子、手に持っている包み物が、何だかすこし動いているような気が……」
稚沙はとても不思議に感じて、思わずその包み物を凝視して見つめる。彼女がいうように、確かにそれは少しもごもごと動いていた。これは何かの生き物だろうか。
「ああ、この子のことか」
厩戸皇子は稚沙にそう話すと、ふと包み物の中に手を入れ、中にいる物体を外に出して彼女に見せてくれた。それはどうやら一匹の白い子犬ようだ。
「きゃ~!子犬だわ!か、可愛い!!」
「私が今回飼うことになった犬で、名前を
厩戸皇子からそう説明された雪丸は、今はどうやら少し眠そうである。そして目が半分閉じかかったまま、大きく欠伸をしてみせる。またこの名前からして、恐らく雄の犬なのだろう。
稚沙は思わずそんな雪丸に歩み寄ると、じーと見つめたのち、少し体を突っ突いてみる。すると犬の方に反応があり、体を少しもぞもぞと動かしてくる。
(白い子犬なんて初めてみた。本当になんて可愛いんだろう)
そんな様子の稚沙を見て、厩戸皇子は「ちょっと抱いてみるかい」といって、彼女に子犬を渡してくれた。
彼女は浮き立つ思いのなか、雪丸を落とさないよう、慎重にしながらそっと腕に抱き寄せてみる。
すると雪丸は「くぅーん、くぅーん」と弱い声で鳴くものの、とくに暴れたりすることもなく、大人しく稚沙の腕の中で抱かれていた。
「この子、まだ生まれて数か月ぐらいですよね。それにとっても暖かい」
稚沙は、そんな厩戸皇子の雪丸にすっかり夢中になってしまった。
「今日は、元々雪丸の引き取りの約束をしていたんだ。それでその合間に恵慈の元にも行こうとしたんだけど、あいにく彼はいなくてね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます