第3話

「じゃあ、彼に歌垣のこと話してみなさいよ。稚沙が必死でお願いしたら、きっと良いといってくれるわよ」


 古麻こま稚沙ちさを励ますような口調でそう話した。彼女から見た稚沙と椋毘登くらひとは、一応恋仲とはいえ、まだまだぎこちない。

 それに少し前まで、椋毘登が度々遠方に出向くことが続き、その期間は中々思うように会えない日々が続いていた。


 いわばこれは、そんな二人への彼女なりの心遣いだった。


 そんな彼女の言葉を聞いた稚沙は、思わず胸を弾ませる。もしかしたら彼も単に気恥ずかしいだけなのではないか。であればこういった機会を持つことで、互いに素直になりやすくなるだろう。


「そ、そうね。椋毘登だって根は優しいし……それに今日は小墾田宮おはりだのみやに来るって聞いてるから、ちょっと聞いてみることにする!」


 稚沙は嬉しそうにしながら、古麻にそう返事をする。また海石榴市に出かけるとなると、久々に外に出かけられる。普段馬を乗り回している椋毘登と違い、稚沙は中々外に自由に出かけることが出来ない。なのでそういう意味でも、とても楽しめそうである。


「じょあ、是非そうしてみなさいよ。私も二人が無事に歌垣に行けたら嬉しいし」


 古麻も笑顔で稚沙にそう答える。そんな彼女も良い提案が出来て、本当に良かったといった様子だ。


 こうして二人はその後、しばし歌垣の話題で花を咲かせたのち、それぞれの仕事へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る