第61話

翌日韓媛からひめは小屋の中で目を覚ました。布を複数枚まとっていたとは言っても、この季節の朝は少し冷え込んでいる。


とりあえず小屋から出てみると、大泊瀬皇子おおはつせのおうじは既に起きているようで、川から水を汲んできていた。どうもこの小屋に水を汲めれそうな入れ物があったみたいだ。


「あぁ、韓媛起きたか」


大泊瀬皇子は小屋から出てきた韓媛に声をかけた。


「大泊瀬皇子、おはようございます。ずっと外で大丈夫でしたか?」


「あぁ、昨日お前が眠ったのち、小屋からそっと布を持ってきた。それから、焚き火の前でその布にくるまって休んでいた」


そう言って彼は韓媛に水を渡した。


皇子から水を受け取ると、その水を一気に飲み干した。水はとても冷えていたが、とてもすっきりとした飲み心地だ。


(皇子をずっと外にいさせる形になってしまって、本当に申し訳なかったわ……)


「大泊瀬皇子、本当に済みません。皇子を外で寝させるはめになってしまって」


大泊瀬皇子は、自身も冷たい水を飲みながら、特に気にするふうにでもなくして言った。


「別に外で夜を明かす事にも慣れている。そこまで困る事もない」


韓媛もそれを聞いてそう言うものかと思い、とりあえず納得する事にした。



その後2人は、皆のいる所まで戻る事にした。大泊瀬皇子曰く、この小屋から離宮までの道のりは何となく覚えているとの事だったので、2人は歩いて戻る事にした。


ただ山道で、所々危ない所もあるため、皇子は韓媛の手をしっかり握って進んで行く。彼女もそれには特に抵抗する事なく、素直にしたがった。


そしてひたすら歩いていると、遠くに離宮りきゅうらしきものが見えてきた。


「韓媛、あそこを見ろ。 離宮が見えてきた」


韓媛も遠くにある離宮を見つけて、思わず安堵した。今回は散々な目にあったが、これで何とかなりそうだ。


そして、離宮が近付いて来ると、馬の走ってくる音が聞こえて来た。

2人がその先を見ると、彼らと一緒に来ていた従者の者達のようである。


そんな彼らも、大泊瀬皇子と韓媛を見つけたようで、馬に乗ったままやってきた。


「大泊瀬皇子、韓媛、ご無事でしたか!!」


「あぁ、大丈夫だ。心配かけて悪い」


大泊瀬皇子は従者達にそう言った。きっと彼らも今まで2人を必死で探していたのであろう。


そうしていると、また別の馬がこちらに向かって走ってくる。よく見るとそれは葛城円かつらぎのつぶらだった。


(お父様も、一緒に探されてたのだわ)


葛城円は皇子と韓媛の前まで来ると、そのまま馬から降りてきた。


彼の表情は少しやつれているように見える。きっと娘と皇子が突然いなくなったので、今まで気が気でなかったのであろう。

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