第64話

瑞歯別皇子みずはわけのおうじは宮の内部を歩いていた。


「しかし犯人は一瞬で娘をさらって行くと言っていた。相手の足が相当に早いのか、もしくは馬に乗っていたのだろうか。だが女達は普段馬に乗り慣れていないし」


そんな時だった。 

彼の目の先で、采女の胡吐野ことのが何やらソワソワしていた。


「おい、お前どうかしたのか」


瑞歯別皇子が胡吐野に声を掛けた。


「これは瑞歯別皇子、実は今日遠方から届く、米や野菜がまだ来てなくて」


「何、まだ来ていない?」


(何か遅れでもあったのだろうか)


「今日は佐由良が当番で、受け取り場で荷物の確認をする予定です。佐由良からもまだ何も返事を聞いてなくて」


「ふーん、まぁ受け取り場にも見張りがいるから、何かあれば連絡は入るのか」


「でも荷物が多い時は、少し離れた所に置いて、そこで荷物の確認をする事もあります」


それを聞いた瞬間、瑞歯別皇子は嫌な予感がした。


「おい、それがあいつらの手口なんじゃ」

 

「皇子、それって例の誘拐の?」

 

「その荷物の中に娘を入れれば簡単に運ぶ事が出来る」


「ま、まさか佐由良が」


その瞬間、瑞歯別皇子はその受け取り場に向かって走り出した。


「お、お待ち下さい。皇子ー!」


胡吐野はその場で叫んだが、彼は気にも止めずに行ってしまった。


(くそ、佐由良無事でいてくれ)

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