第56話

それを聞いた雄朝津間皇子おあさづまのおうじは佐由良を見て言った。


「でも、その相手が佐由良になるのは嫌だな」


皇子はポツリと佐由良に言った。


「え……」


思わぬ事を言われて、佐由良は驚ろく。


「佐由良は一緒にいて楽しいし、何か好きなんだよね僕」


(え、私が好き?)


この皇子は言っている事の意味を理解しているのだろうか。

それとも、単にお気に入りの人を取られたくないだけなのか。


雄朝津間皇子は不思議そうにしている佐由良を見ながら、無邪気に続けて言った。


「でも、瑞歯別みずはわけの兄上に佐由良をちょうだいって言っても、今の感じだと駄目って言われそうだし……」


(それって私を自分の側に置きたいって事)


「皇子、それは私に側で仕えて貰いたいって事ですか?」


佐由良は皇子に問いた。


「あぁーそうじゃなくて......佐由良を僕の妃にしたいなと思って」


(え、私を妃に)


「君は命懸けで瑞歯別の兄上を守ってくれるぐらいとても勇敢だ。それにとても心の優しい人だと思う。

まぁ、純粋に一目惚れって事もあったんだけどね」


皇子は少し照れながら言った。


それを聞いた佐由良に動揺が走った。


「ただ僕もまだ子供だから、頑張って兄上に認めてもらえるよう、頑張るしかないかな」


「雄朝津間皇子……」


「とりあえずこの件は、僕がもっと大人になって自信がついたら、瑞歯別の兄上に申し立てしようと思う。

佐由良も、その時に決めてくれたら良いから」


佐由良は何て答えたら良いのか分からず、口から言葉が出てこない。


「はい、この話しはここまで!

一応、瑞歯別の兄上にはこの事は内緒だよ。じゃあ佐由良も仕事があるだろうから、ここで失礼するね」


そう言って雄朝津間皇子はスタスタと歩いて行った。


(皇子は本気なのかな……)


相手は自分よりも若いとはいえ、大和の皇子だ。佐由良にはどうすれば良いのか分からなかった。


(とりあえず、しばらくは様子を見るしかないわ。それに言われた通り瑞歯別皇子にも黙っておこう。

こんな事が瑞歯別皇子の耳に入ったら、何かと面倒な事になりそうだ)

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