第50話

翌日、佐由良が倉庫の片付けを終えて戻って来た時の事。

胡吐野ことのと同じ宮仕えの伊久売いくめが何か話しをしていた。


「2人供何かあったの」


2人は佐由良がやって来た事に気付き、彼女に歩み寄った。


すると伊久売が彼女に答えた。


「昨日雄朝津間皇子おあさづまのおうじがこの宮に来られたんだけど、しばらくここに滞在されるみたいよ」


「雄朝津間皇子?」


(一体誰なんだろう)


佐由良は不思議そうに思っていると、胡吐野が答えた。


「前の大王の第4皇子で、今の大王の弟になるわ」


「え、まだ皇子がいたの?それは知らなかった」


吉備海部で伝わっていたのは瑞歯別皇子みずはわけのおうじまでだった。

他にも皇子がいてもおかしくはないが、まだ幼いか身分が低いかのどちらかだろう。


続けて伊久売が答えた。


「雄朝津間皇子はまだ11歳で、磐之媛いわのひめが産んだ末の皇子よ。佐由良あなたよりも若いんだから」


「へぇー磐之媛様の末の皇子ね。それは知らなかったわ」


(磐之媛は結構たくさん皇子を産んでいたのね。本当に同じ女性として凄いと思う……)



「それで、その雄朝津間皇子がどうしてこの時期に来られたの」


最近は物騒な事件が続いていた為、この若宮内でも、割りと見張りが強化される事態になっていた。

なので、そんな中で来るとなると佐由良も少し不思議に思えた。


「特に用があった訳ではないらしく、どうも久々に兄の瑞歯別皇子に会いたかったみたい。まぁ、この皇子様が謀反を起こすとは考えにくいし……」


伊久売がそう答え、胡吐野も「そうそう」と頷いた。

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