第15話
佐由良はその場に呆然とたたずんでいた。
一体自分に何が起きたのかも分からず。
そうこうしていると、向こうから一人の女が走ってきた。良く見ると同じ采女の
「佐由良、良かったここにいたのね」
「加那弥、ここに来る時1人の男の人を見なかった。凄く身分のありそうな感じの」
「ええ、私もさっきそこでばったり会ったわ。佐由良、あの方が誰なのか知らなかったの」
「ごめんなさい。初めてお会いしたわ」
それを聞いた加那弥は少しやれやれといった感じだ。
「あの方は
「え、あの方が瑞歯別皇子。名前だけは知っていたけど」
(確か住吉仲皇子の次に当たる第3皇子で、とても有能な皇子だって吉備でも噂されていた。歳は確か私の従兄弟の
「まぁ、佐由良は大和に来て日が浅いから仕方ないわね。でもまさか瑞歯別皇子まで来ていたなんて、私も本当にびっくりしたわ。瑞歯別皇子が来られると知っていたら、もっと着飾って出迎えしたものを」
加那弥はひどく悔しそうに言った。
「え、着飾ってって?」
「だって瑞歯別皇子は見ての通り、本当に綺麗な皇子で、次の大王の弟皇子にあたる方よ。どの娘も出きることならおきに召してもらいたいって思うわよ」
加那弥は当然の事のように答えた。
「確かに綺麗な人だとは思ったけど、そんな理由だけで、誰でもって分けにはいかないんじゃないの」
「佐由良、私達采女はそんな安全な身分ではないのよ。自分達が生き延びる為には、より力のある人に仕え、そしてその人の妃になって子を成す。
それが全てなのよ。それならちょっとでも身分のある男を選びたいって思うじゃない」
「それはそうかもしれないけど……」
(でも采女は、仕えてる人に全てを握られている。私達に自由なんてないのに)
加那弥のような考え方は、佐由良自身には中々出来ないと思った。
今はただただ宮の皇子にお仕えするので精一杯だ。
「でもあの人、私が吉備の海部の生まれと言った瞬間、今後自分の前には余り現れるなとか言っていたわ。それとあの女と同じ族とか。一体どう言う事なのかしら」
それを聞いた加那弥は酷く驚いた表情をして、少し気まずそうに言った。
「それはきっと吉備の
「え、伯母様が」
「前の大王は黒日売様をとても大事にされていたんだけど、でもそれが瑞歯別皇子達の母にあたる
「え、そんな事が」
「そして、その事が当時まだ幼かった瑞歯別皇子の傷にもなってしまったの。他にも妃は何人もいたけど、大王は黒日売様の為にわざわざ吉備にまで会いにも行かれたから」
佐由良自身まだ恋をした事が無かったので、磐之媛の苦しみがどれ程のものかは分からなかった。だが人は恋する人や夫を持つとそんなにも苦むものなのだろうか。
何とも恋とはやかっないなものだと彼女は思った。
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