第3話

乙日根おつひねの家はこの族の長にふさわしく、とても大きく豪快な作りになっている。


濠の斜面には石が綺麗に貼られ、さらに堀・土塁・柵がめぐらされていた。

そして内側には穴を掘って、その中に柱を立て、その上に屋根をかけて掘立の柱の作りをしている。



そして家の前には見張りの男が一人立っていた。


佐由良はその男の元に駆け寄った。


「さっき急にここに来るよう、乙日根様に言われてきたの。中に入らせてもらえる?」


その男も話は伝わっていたらしく、すぐさま道を開けて、中に入るよう催促する。


すると佐由良はそのまま真っ直ぐ中に入っていき、そして奥にある乙日根のいる部屋の前までやって来た。


「お祖父様、佐由良です。ここにくるよう言われて来ました。中に入ってもよろしいですか?」


佐由良は部屋の外から声を掛けた。


「ああ佐由良か、待っていたぞ。早く入って来なさい」


佐由良は乙日根からの返事を聞いて、「失礼します」と言ってそっと中に入った。


中に入ると、部屋の真ん中に乙日根がゆったりと座っている姿があった。


彼女は乙日根の前に来て座り、深々と頭を下げた。


「お祖父様、どうもご無沙汰しております」


例え祖父と孫の関係であっても、相手は族の長だ。立場をわきまえて彼女は挨拶をするようにしていた。


「わざわざ急に呼び出して済まないな。とりあえず顔を上げなさい」


そう言われ佐由良は顔を上げた。


目の前にいる乙日根は今年50歳にはなるものの、族の長だけあってかなり貫禄がある。

そこはやはり、ここ海部をまとめ上げる人物だけの事はあった。


そんな乙日根は佐由良の顔をじっと見ながら何かを考えているようだったが、しばらくして「ふーん」と言った後、何かを決めたかのように口を開いた。


「実はだな、先日大和やまとから新しい采女うねめを吉備から差し出せと申し出があった。そこで色々考え、佐由良、お前を大和に差し出す事にした」


采女とは、大王やその家族の身の回りの世話をする女達のことだ。

その多くは地方の豪族の娘達であり、地方の族は服従の証として自分の娘を采女として、大和に差し出していた。

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