第10話

「……なんでそんな他人行儀な呼び方するんですか? 昔は、イブちゃんって親しみを込めて呼んでくれてたのに」



まるで捨てられた子犬のような、悲しそうな瞳で都古を見下ろす伊吹に、



「それは、私が朝倉くんのこと、女の子だと勘違いしてたからで……」



都古はバツが悪そうに答えた。



実は、都古と伊吹は幼なじみ同士。



都古は母方の曾祖父がドイツ人、伊吹は母がスウェーデン人らしく、周囲から腫れ物のように扱われてきた幼少期を、異国の血を持つ者同士、仲良く過ごしてきた。



都古は綺麗な黒髪と持ち前の明るいキャラのお陰であまり仲間外れなどには合わなかったが、見るからに“外国人”な見た目をしている伊吹には、都古以外の友達はいなかった。



そして、当時の都古は、伊吹のことを女の子だと思って接していたので……



男子とは距離を置こうと決めた都古に、伊吹と以前のように仲良く過ごす気はない。



美少女のように可愛かった伊吹は、今やすっかりと美少年に成長してしまったので、きっと彼を狙う女子も多いはず。



第一、



「勝手に突然いなくなったクセに、また突然現れて仲良くしようなんて、自分勝手すぎない?」



都古が小学五年生になる頃、伊吹は都古に別れも告げずに、突然家族全員で姿を消したのだ。

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