第38話

「右京くんは、もう戻らなくていいの?」



あれだけ人気者だったのだから、あのカフェに彼はまだまだ必要なはずなのに。



「スタッフは前半組と後半組に別れてて、俺は前半組。やっと出番が終わったから、もうずっと美紅と過ごせるぞ」



右京が嫌な仕事でも頑張れたのは、この後で美紅とあちこち見て回るのを楽しみにしていたから。



「初めてなんだ。文化祭を楽しみだなんて思えたのは」



優しい笑顔を向けてくれている右京を見て、美紅はスカートのポケットからハンカチを取り出して目に当て、涙をしっかりと拭き取った。



彼と一緒に文化祭を過ごせるのは、今年が最初で最後なのだから。



こんな泣き顔で過ごしていてはいけない。



ハンカチをポケットにしまい、美紅は顔を上げる。



「右京くん、お昼まだだもんね? 一緒に食べ歩き行こ!」



在校生は事前に食券を購入しているので、美紅はブレザーのポケットに入れているコインケースの中身を確認する。



そこにはまだ引き換えていない『焼きそば』、『たこ焼き』、『豚汁』、『ベビーカステラ』の食券が入っていて。



「相変わらず、美紅はよく食べるよなぁ」



さっきパンケーキセットを食べ終えたところなのに。



「食いしん坊な美紅も、可愛くて好きだぞ」



「……食い意地張ってる自覚はあるもん」



美紅は少しだけねてみせたが、優しく頭を撫でてくれる右京を見ていると、きっと彼は本音でそう言ってくれているのだと分かる。

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