第18話

ちなみに、だ。藤村先輩の話でうっすらと思い出したが琳の名前は以前見たことがあった。


各学年定期考査の結果は掲示板に上位十名の名前が記された用紙が貼り出されるのだが、私の代の学年は毎回一番の横には「茅野琳」という名前が刻まれていた。琳は嬉しそうに藤村先輩のすごさを語っていたが、琳も十分にすごい人だ。



「そっかぁ祐希は四組なんだね。俺は二組だから体育も一緒じゃないし残念だなー」


「でも、たまに先生の都合で二組、四組で体育やる時あったよな」


「弥栄の時そうだったね! 海悠はどうなのかなー。わりとシステムは似てるけど」



 琳とは、すっかり打ち解けれたと思う。琳自身の人柄の良さも相まって、変に警戒してしまう方が失礼な気がしたから。



 あと、藤村先輩がちょくちょく「好きな食べ物とかあるか?」「逆に嫌いな食べ物は?」「アレルギーあるなら絶対言ってくれよ」と食べ物関連で話しかけてくれたり能登さんが「仲良くなっていて安心したなぁ」とニコニコ微笑んでたり、二十分の車移動はあっという間に終わってしまった。


 能登さんがバック駐車を綺麗に決め、駐車場に降り立つ。目の前にドドンッとそびえるのは、大きめの看板が目を引く大型ショッピングモール。



 中は、休日ということもあり大勢の人で賑わっていた。家族、友達同士、恋人同士……キリがない。さすが大型ショッピングモール。


 中に入るまでは能登さんと共にいたが、中に入ると早々に別れた。用事が終わり次第連絡して欲しいとだけ藤村先輩に言うと霧のように人混みに紛れてしまった。



「とりあえず、百均行くか」


「え、百均ですか?」


「祐希の茶碗とかねえし。買わねえとな」



 さらりと。さも当たり前かのように藤村先輩は言った。百均何階だっけか……とぼやきながらエスカレーターのある場所探している。


 ……確かに、女子寮には食堂があったから食事面で困ることはまずない。そのため茶碗や箸、なんならコップも持っていない人もいる。まあ食器類オールでないのは私なわけだが。食堂に行けばあるから持っていなくても困りはしないのだ。



 いくらないとはいえ、短い間しかお世話にならない私のために新品の茶碗などを用意させるのは心苦しかった。



「わ、悪いですよ。余っている皿とか紙皿でもなんでもいいですから」


「金の心配してるのか? なら安心しとけ、能登さんがくれたんだ」


「そ、そうなんですか……」



 別に百均で買い物ができないほど小銭がないわけではないが、能登さんがわざわざ私のために用意してくれたお金を使わず、意地を張って断るのも申し訳ない。結局私は頭を下げてお礼を述べた。優しい人ばかりだ。本当に。


 藤村先輩は悩んだ素振りをしてから。



「『これで必要なもの買っておいで〜』って言ってたんだよ」


「……ふふっ」



 少し声真似をしながら言うもので、少し笑ってしまった。表情も心なしか能登さん寄りで余計に笑いを誘われる。


 しかし、笑ってしまうのは失礼だったか……と気づきまた謝ろうとしたが、藤村先輩があまりにも優しい顔をしていて、一瞬言葉が詰まった。



「緊張、だいぶ解れてるな。良かった」



 頭に手を置かれて軽くポンポンと叩かれる。イケメンにしか許されない行動をされていて私はポカンと間抜け面を晒すことしかできなかった。



「ほら、行くぞ。百均があるのは二階だ」という藤村先輩の促しでようやく動けたものの、顔が少し熱い。



 ……イケメンは、違うな。

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