第86話

新曲が発表されてしばらく経った初夏。名古屋のとある定食屋で、綾子と蕗江は待ち合わせをして再会した。


 綾子の顔がどことなく暗い。蕗江は、

「元気ないみたいだね」

 と、心配すると、綾子は、

「実は話したいことがあります」

 蕗江と綾子が席に座ると蕗江は、

「改まってどうしたの?」

 綾子の目が泳いだ。蕗江は水を飲む。綾子も水を飲み、

「文子の話だけれど……」

 一度顔を伏せ、また顔を上げ、

「……文子は私なの」

 蕗江は話が飲み込めず、

「と、言うと?」

 綾子は小声で、

「私がレズビアンなの」

 蕗江は、

「そうだったんだ。なんか不謹慎な事を言っちゃったかもしれないね」

 綾子は、

「気を遣わないで欲しい」

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